蛸

メッセージの蛸のレビュー・感想・評価

メッセージ(2016年製作の映画)
4.2
所謂ファーストコンタクトもの。凡百のファーストコンタクトものとの違いとして、「宇宙人とのコミュニケーションを成立させようと努力する人間たち」にドラマの焦点があてられているところが面白いです(大抵はいきなり争いになったり、そもそも生物として差がありすぎてコミュニケーションなんか取れなかったり)。
そこに来るとこの宇宙人は割と人間に近い存在で、なんと言語を操るらしい。ということで主人公の言語学者が活躍します。

この映画では「宇宙人が襲来して地球がどうなったか」という点はあんまり描かれません。というよりも、そのようなことはあくまでも主人公が見たニュースを介して観客に知らされるだけだったりします。
この映画は物凄く大きな規模の物語を扱っているのに、徹底して主人公の一人称で進行するのです。(物語の合間合間に主人公の幻視シーンが挿入されます)
宇宙人が地球に来襲するという「大きな物語」と主人公の人生という「小さな物語」が交錯するという点がこの映画の2つ目のユニークなところなのでしょう。
そしてそのための仕掛けとしての言語学。
「言葉は認識の後にくるのではなく認識自体である」と言ったのは多分メルロ=ポンティだったと思いますが、このような前提があるからこその物語的な飛躍が可能になります(それにしても飛躍しすぎではないかと思いましたが)。
この部分に関しては『スローターハウス5』や『ウォッチメン』を想起される方も多いでしょう(あんまり言うとネタバレになるので)

ヴィジュアル面について言うと、ヴィルヌーヴ監督独特の黄土色みがかった端正な構図の映像は、映画を非常に堅実なものとしていると思います。しかし映画の全体にわたってデザインの面での「あそび」があまり感じられなかったところが少し残念でした。
宇宙船のまさしく「崇高さ」を感じさせるような巨大感は素晴らしいだけに宇宙人のデザインの二番煎じ感は否めません(ウェルズの『宇宙戦争』から進歩していない)。ところどころでセンスオブワンダーを感じさせるようなデザインがあれば個人的にはもっと評価が高くなったと思います。

とは言え、物語の面でセンスオブワンダーは充分に感じられるので問題ありません。ワンアイデアを膨らませてできた正統派ファーストコンタクト映画の秀作だと思います。
蛸