海老

アントマン&ワスプの海老のレビュー・感想・評価

アントマン&ワスプ(2018年製作の映画)
3.9
蟻は、自身の400倍もの重さの物を持ち上げる力があるが、その自覚はない。

これは僕の敬愛する小林賢太郎の舞台演劇の台詞の引用。蟻という生き物は、力強さの象徴として用いられる事があるのと同時に、小さく脆いものの代名詞にもなるから、不思議な存在だななんて考えたりします。

そんな蟻の名を冠した、小さいけれど大きいヒーロー、アントマン。

MCUはスーパーパワーに憧れる童心をいつも絶妙にくすぐってくる。蜘蛛の跳躍でビル群を自由に飛び回るヒーロー、全身にメタリックな最新テクノロジーを纏うヒーロー、魔術を自在に操るヒーロー。そして身体を自在に拡大縮小できるヒーロー、アントマン。

もし体が小さくなったら身近な景色も全てが大冒険。そんな妄想の経験がある人は少なくないのでは?
そんな空想を満たして暴れ回る小さいヒーロー達がとても爽快。投げつけられたナイフの側面を駆け抜け、巨大な鳩についばまれ、乗用車はケースに陳列される。分かってる。非常に分かっていらっしゃる。幼い頃の妄想が満たされていく。

そしてコメディのキレもなんと気持ちいいこと。妙に憎めない悪役と間抜けな仲間の掛け合いも最高で、人間ジュークボックスと揶揄されるルイスのアテレコマシンガントークは声を出して笑ってしまった。
蟻のヒーローなんて、下手をすれば昆虫まみれの恐怖表現に溢れてしまいそうなのに、全編を通してこの緩さがあるから、親しみやすくて夢中になれる。
だからこそ、ストイックなヒーローになりきれないスコットラングの事も、父親として、アントマンとして、自分なりに奮闘する姿をたまらなく愛おしく感じられる。大事な場面で家族や生活を案じて失敗もしてしまう人間らしさ。それでも最後まで投げ出さない姿に惹きつけられる。それがクールな格好良さとは違くても。

あのインフィニティーウォーと並行した時系列において、かの物語とは対照的なミクロの世界で、かの物語への希望も絶望も同時に感じさせるストーリー。

一見頼りないけれど内側に秘めたものは大きくて、情けないけれど、かっこいい。万人のスターでなくても、子供にとっては最高のヒーローだった彼も、自分の力に自覚は無かったかもしれない。
そんな彼を映し鏡に、世の父親が子供にとってのヒーローであればいいと思う。本人が自覚する以上に。

「貴方にとって、丁度いいヒーローでいたい」

同じく小林賢太郎の言葉をもって締め括る。
頑張れパパ。世界中のヒーロー達。
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