あ

ピアニストを撃てのあのレビュー・感想・評価

ピアニストを撃て(1960年製作の映画)
5.0
見えない方が想像できる。いい癖してますね。

主人公になった瞬間女が死ぬから、あえてBGMになる。主人公であるはずの人間が、主人公としての特権を自分から積極的に捨てに行く、ここまで思い切りのいい映画はなかなかないと思います。

ラストまたピアニストとして物語の背景に戻っていったシャルリを観た観客は、もうシャルリのことを、匿名の何の変哲もないピアニストとは思えなくなる。こうした匿名の人間に物語を与え、尊厳を与えるトリュフォーだからこそ、街のどの一角もそこにいる人も固有の生きた人間として見せられるんだと思いました。

トリュフォーってどんな街角にも物語を見つけながらパリを歩いてたんだろうなと思います。本当のヒューマニストってこういう人のことを言うんじゃないでしょうか。

フィドが自宅を飛び出すと友達の家に飛び上がって牛乳瓶を追っ手の車に落とし、追っ手が牛乳をワイパーで拭うとフロントガラスの向こうのシャルリを誘拐するが、次に乗せたレナに赤信号でアクセルを踏まれ警察に捕まっているところで、シャルリとレナはバスで逃げる。ここは本当に爽快でした。アクションの連続で繋ぐ編集が本当に上手いです。めちゃくちゃな手ブレすら納得のいくものにしてしまう繋ぎがまあ見事なこと...

狩られた鹿みたいに力無く落ちたレナのロングショットも呆気なくて見事でしたし、何より背景に戻ったシャルリのピアノで終わった時点で勝負ありでした。抗えない運命だって綺麗だと思わされて終わる、後味が良い...

そういえば何で追われてるの?と聞くのはナンセンス
あ