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葛城事件のfranyのレビュー・感想・評価

葛城事件(2016年製作の映画)
3.9
営業妨害になってしまうんじゃないかと思うほど、度々出てくるコンビニご飯が不味そうに見える映画。

無差別殺傷事件を起こした次男、エリートの道を踏み外してフェードアウトした長男、崩壊していく家庭の中で心を病んでいく妻。
男は自分のどこがいけなかったのかは気づけていない。
マイホームを手にして、庭にまだ幼かった子供たちの健やかな成長を願い、植えたミカンの木を眺めるシーンは幸せに満ちていた。
ただ理想の家族像を追求するあまり、自分のビジョンから外れた家族の言動をだんだんと許さなくなっていく。

ただ、それに近い事はどこの家庭にも少なからずあるんじゃないのかな。
ほんのほんの些細な亀裂を、その都度ぶっきら棒な「ごめんなさい」でも修復できていたら、全く結果は違ったのかも知れない。
押さえつけられ、服従させられた妻、息子二人の自己肯定感の低さが、どんどん事態を悪化させていく。

次男の死刑が確定したあと、次男と獄中結婚する死刑撲滅論者の女性に主人公が「それは偽善で自己満足なオナニーだ」と一刀両断するんだけど、このセリフだけはかなり共感した。
たまに受刑者と手紙のやり取りや数回の面会だけで結婚する女性がいて、それなりに真理があってそうするんだろうけど、やっぱり私には純粋なものには思えない。
結婚を冒涜してるんでないかい、とすら思う。
この女性が信念にしていることと真逆のセリフを、最後に主人公に投げつけることになるのが皮肉。

息を抜けるシーンが本当にない。
主人公が近所のカラオケスナックで、相手のいない「三年目の浮気」を律儀に男パートの部分だけを歌う場面くらい。
嫌な人がいっぱい出るけど、それぞれの登場人物の欠点は意外と自分と重なる部分があったりしてゲンナリしてしまった。

追記
この生々しい臨場感。
出演者全員の高い演技力とヘヴィーな題材を扱いながら終始、抑揚の効いた演出の結実だと思う。
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