Shu

ボーダータウン 報道されない殺人者のShuのレビュー・感想・評価

4.5
アメリカとの国境地帯に位置するメキシコの一都市フアレスで、女工や付近住民の強姦殺害事件が頻発していた。その犠牲者はゆうに5000人以上。何故か報道すらされないこの恐るべき大規模犯罪は犯人の特定もままならないまま、もはや事件を超えて災害と化しつつあった。しかし、犯罪を引き起こす真の病理はこの国の腐敗そのものにあったのである。

アメリカの超大手出版社のエリートジャーナリストがこの事件に向かいあい、人生を賭けて実態に迫る準ノンフィクション映画。





ジェニファー・ロペス、アントニオ・バンデラスといったベテラン俳優勢を起用し、完全にシリアスな脚本を締まった演技で支えている。準主役級の被害者女性役も驚くべきことに新人ということだが非常に上手な役者だ。

作品内容も事件自体が未だ未解決のノンフィクションということで、凄惨で根の深い事件やメキシコの実態に驚き、圧倒的なリアリティを放つ空気感や貧困の描写に眉根を顰め、メキシコ/アメリカの政官財全ての腐敗の実態に反吐が出て、主人公たちの生き様に素直に感動できる素晴らしい映画だった。

しかしながら全編にわたり暗く、派手さは微塵もないし、観劇後のカタルシスもそれほどでない、この手の準ノンフィクションにはありがちな流れのストーリーでもある。

でも、イイものはイイのだ。

自分のこれまでの人生で最も好きな映画は「クイズ・ショウ」だが、それに似た作品だと感じる。完全に自分好みの映画といったところだ。





自分の好きな「レインメーカー」「エージェント」だとかこの映画にも共通することだが、大きな名誉や利権ある地位を捨てても、己の信念や使命感に准ずるという姿勢に憧れるわけだ。それは多くの人にはとても難しくて勇気が必要で望めど得られぬ人生だ。これまで色々な映画のパターンに飽き倒してきたが、この設定は自分にとってのスイートスポットと言うか、まだ見飽きたりない憧れの象徴である。まあまず、そういう前提条件に到達することからして困難だけども・・・・・・一応、人生は攻めの姿勢で臨みたいといつも思ってはいる。





自分の中でクイズ・ショウの域まで到達しなかった原因は、クイズ・ショウでいうジョン・タトゥーロの存在に当たるエンタメ性が欠けていた点か。まあこれは事件やテーマからして仕方がない部分もある。代わりに、現在も引き続いている事件を追ったという徹底したリアリティと、数多の妨害による撮影の困難さを乗り越えた点を特に賞賛したい。DVD特典で監督自身から語られる、撮影中のスタッフの安全確保を始めとする公開に向けての苦労には素直に感動し頭が下がる思いだ。





「ジャーナリズム」この言葉の響きはかつての自分にとって、ドラマチックで魅力的で信念に溢れていて、すごくカッコイイものだった。

今やその言葉は形骸化どころか、本当に存在したかどうか分からない夢物語や質の悪いブラックジョークになりつつある。

世界のどこかの事件現場にはこんな生きる伝説のようなジャーナリストがいて、報道・取材に命を賭けているのだと信じたい。

そしてこの作品の監督には確かにジャーナリズムを感じた。

今期の(公開はかなり前だけど)NO.1を争う作品に偶然にも出会えたことに感謝します。
Shu

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