YuikiKoiwa

ガタカのYuikiKoiwaのレビュー・感想・評価

ガタカ(1997年製作の映画)
4.3
人は己の過去を悲観せずにはいられない。

生まれた時代、出生、愛着、体力、知能、容姿、学歴、収入、これらの歴然とした格差。

その呪いを解くものは何か。

財産か、名誉か、優越感か、美酒か、それとも愛か。

掴めども掴めどもその手から零れ落ちる形のない"幸福"というものを、彼はその身を削ってまで追い求めた。

しかし、世間を裏切ってまで得た称号は彼を満足させる事はない。

なぜなら"不幸"から逃げ出そうともがいているだけの自分に見て見ぬふりをしていたからだ。

"他者から地位は奪えても、幸福そのものは奪えない"

ヴィンセントに限らず皆が幸福を求めても得られない中で、そこに至ったのは"与える"ことに意味を見出した者だった。

冒頭に伝道の書からの引用がある。

「神のみわざを考えみよ。神が曲げられたものを、だれがまっすぐにすることができるか。」

この書は神から最も優れた知恵を授かったソロモンが、この世で労する空しさを書き連ねたものだ。

彼は父であるダビデからエルサレム王国を継ぎ、彼の知恵によって国は瞬く間に繁栄を極めた。

しかし、その晩年には失政が続き、ソロモン王は尊厳を失い享楽にふけっていった。

人の欲には底がない。それは無限に広がる宇宙よりも深く、暗い。

私は今、優生学への批判だとか、はたまた神への信仰心について語ろうとしているのではない。

ただ、人間はちっぽけで、自分の器の分だけしか与えるものはなく、それで人生は十分だという事だ。
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