なまけもの

ラーンジャナーのなまけもののレビュー・感想・評価

ラーンジャナー(2013年製作の映画)
4.2
主人公のキラキラした初恋が、あまりに重く苦しい愛になってしまうお話。

巷で言う「ラブストーリー」とは全然違うんだけど、これもまた一種の「ラブストーリー」だし、ラブが激重で破滅へと向かう「ラブストーリー」というかなんというか…。

主人公のクンダンは、幼いころ異教徒(ムスリム)のゾーヤに一目惚れをし、それ以来彼女を一途に思い続ける。

クンダンのゾーヤに対する「愛」というか「執着」は物凄くて、ハッキリ言って常軌を逸している。
前半は特にヤバさが際立っているし、独りよがりな部分が大きい。
でもゾーヤの気の強さとしたたかさが、この関係におけるパワーバランスをあくまで「ゾーヤ>クンダン」としているのがうまい。
そしてクンダンの愛は物騒だけど、一方であまりに真っ直ぐ。それもあって「Tum Tak」や「Raanjhanaa」といったクンダンの一途な恋心を表す名曲(マジで名曲)たちが、彼の恋をどこか爽やかなものにも見せている。

だけど後半に行くにつれ、一気に雲行きが怪しくなっていって、もう二人の関係は修復不可能…ここからがマジでツラい。
そしてクンダンの愛は独りよがりなものから全てを捧げる「信仰」に近いものになっていく。
ここからはクンダンがひたすら不憫なんだけど、結局これは彼自身が引き起こした災厄であるわけで。

ラストは一見すごい悲劇だけど、実は救いであり、それこそ「解脱」だよなあ。
個人的にこれほど完璧なラストがあるだろうかとさえ思う。

全てを焼き尽くした先にこそ光が見える映画とでも言おうか。
私がとても愛している映画。


ここら辺の情報を知ってると解像度が上がりそう📝
・バナーラスっ子のステレオタイプの一つが「悪口がハンパない」らしい。本作でも登場人物たちの悪口のレパートリーがすごい。
・ゾーヤの通うJNUという大学はデリーに実際にある大学で、人文系の学問で非常に有名なエリート大学。学生運動も盛んで、左派のみならず右派の学生団体も多くある。体制側との激しい対立が起こりがちな場所というイメージが強い。
・作中でゾーヤたちが黒い服を纏い行っていた路上劇(nukkad natak)は社会問題提起の手段として実際に行われているもの。
・インドでは異教徒同士、特にヒンドゥーとムスリムが恋愛や結婚をするのはリスクが大きい。異教徒同士のカップルの片方または両方を、親族やコミュニティーが殺害するという事件も起きている。