義民伝兵衛と蝉時雨

大恋愛の義民伝兵衛と蝉時雨のレビュー・感想・評価

大恋愛(1969年製作の映画)
4.4
既婚中年男の痛々しい恋の病。「ヨーヨー」程ではなくとも、観念的かつユーモラスな映像表現が本作でも光る。田園風景の中をベッドに乗って走るシーンの夢幻的な美しさと、えも言えぬシュールさは、特に鮮やかに心に焼き付いている、映画史に残る様な名シーンだ。ブルジョワの前時代的な恋愛観は痛々しいが、叙情的で観念的で夢幻的で独創的なこれらの映像表現の中に垣間見える人生のリアリズムと普遍性、それは「ヨーヨー」では感じられなかった要素。トリュフォー監督のアントワーヌ・ドワネル・シリーズの中で描かれてきたモノと類似性を感じる。ラストカットにも一層心がぽかぽかと暖まる。ほろ苦くも仄かな甘みを持つ、ささやかな幸福感の中にだからこそ感じることの出来る人生のリアリズムと普遍性がしみじみと心に沁みた。