このレビューはネタバレを含みます
白血病を患う余命わずかの娘の願いを叶える為、彼女が憧れるアニメヒロインのドレスを手に入れようと奔走する父親の話。
監督は本作が長編映画デビュー作の新鋭カルロス・ベルムト。
誰かの犠牲無くして「魔法」や「奇跡」は起こらない。
そんな「まどマギ」的な残酷さと運命の交差。
欠けたパズルの欠片は意外な場所で見つかり、繋がらなかった人と人、線と線を結び合わせる。
アイドル時代の長山洋子の名曲「春はSA・RA・SA・RA」の妙な親和性&流れるタイミングは神レベルだった。
白血病で余命幾ばくも無い少女アリシアは、元教師で失業中の父親ルイスと二人で暮らしていた。
ある日ルイスはアリシアの「願い事ノート」に書かれていた日本のアニメ「魔法少女ユキコ」の主人公が着ていたドレスが欲しいという願いを叶えてあげたいとネットで同じものを探すが、それは中々手が出ない値段であった。
という序盤の流れからすると父娘の間のちょっと良い話のような気がしてくるが、話は二転三転とどんどん転がって行きあらぬ方向へと向かう。
そのお話の転び方がちょっと予想を上回るほどのものであり、BGMも乏しくたっぷりとした間を持って進んで行く眠たくなるような作りではあるが、先の読めなさという一点が興味を持続させる。
序盤の展開からラストの流れが予想出来る人がどれほどいるだろうか...。
乾いた静かなタッチの中に恐ろしいほどの暴力性を秘めた内容は、同じくスペイン映画のミシェル・フランコ監督「父の秘密」にも通ずる。
精神的な病を患う女性バルバラに出会ったルイスは、彼女の魅力に誘われ関係を持ってしまう。
そして、バルバラの夫が精神科医で裕福な家庭であるのを良いことに彼女を脅迫し娘のドレスを買う為のお金を要求する。
精神的な病を抱えるバルバラはもちろん、彼女の夫もまた精神的に何か問題を持っているのかと思われる部分があり。
バルバラに対して執拗に薬が飲めているかを確認したり、威圧的な態度で迫ったりと彼女を支配し服従させるような、妻と夫というよりかは患者と医者という関係の方が強いと感じた。
そんな彼女が夫に内緒にしてまで知人の紹介を通じて行う秘密のアルバイトは劇中ではどんなものかは画面では描かれていないが、リミットを知らせる合言葉があったりそれが無い場合もあったりと様々な想像や妄想を掻き立てる。
リミットが無いという事は死んで言葉が出せなくなるまでそれが続くのか、はたまた言葉が出ないほどの激痛を伴うのか...。
顔中が腫れ、首の骨に影響を及ぼすほどの破壊力であるから並のSMプレイではないと想像出来るが、死姦や扼姦、獣姦や異種姦などそれ相応の対価に見合ったものが用意されているんだろうか。
教師時代にバルバラの担任であった元教師ダミアンは、出所後に彼女と再会するがそれは悲劇的なものだった。
バルバラが先の件で重傷を負っているのを知ったダミアンが、彼女がついた「彼に強姦された」という嘘によりルイスに接近し復讐を果たそうとする。
オープニングで描かれていた教師と少女の印象的なやりとりはダミアンとバルバラのものであるが、ダミアンがそもそも服役するきっかけになった事件というものが描かれておらず説明も仄めかされている為、彼とバルバラがどのような関係なのかも
推測しなければならない。
ダミアンが明かす発言から察するにに、彼には小児生愛的な面があり幼いバルバラと何かしらの関係を持っており、彼女に何者かを殺して欲しいと頼まれそれを実行してしまったととれるのだが、それもただの予想の一部である。
というように、ダミアンとバルバラの関係だけに限らず解釈が観客側に任されている部分が多く、その受け取り方次第で面白いと感じれるかどうかが大いに違って来る。
鑑賞後も余韻が続き余白がある映画というのはそれだけ強く頭の中に残り続ける良作であるとは思うのだが、今作はその他人任せな部分の割合がすこし多過ぎるのではと感じるところもあった。
ダミアンがパズルをまだ少ししか進めていない段階は序盤、そしてあと一ピースで完成する段階が終盤だが、その前に序盤でルイスがバルバラの家の下の宝石店でピースの欠片を拾っている場面がある為「何故バルバラの家にパズルのピースがおちているのか」という疑問が湧いてくる。
これは時系列が逆になっている分混乱しやすくて「バルバラがダミアンにパズルを送る前にわざとピースを抜いていた」という恐ろしい考えに気付かさせない為なのかなと思ったり。
幼い頃にもバルバラがダミアンにそれと同じような悪知恵を働かせて誰かを殺させたのだとしたら、バルバラの魔性の女っぷりがいかがなものかうかがえる。
オープニングでバルバラが披露したメモが消える手品をエンディングでダミアンがして見せるという事は、立場が一転し今度はダミアン側が優位に立ったということであり。
「2+2は4であり、完全な真実というものは常に答えが同じである」
という言葉のように、そうなるべくしてなってしまう運命を描いた作品だった。
魔法少女の衣装を着てステッキを振り回していても、目の前に迫る銃弾=病による死を防げないという「魔法」の存在を否定するようなラストは超絶鬱な締めであった。
と同時に、アリシアにとっては痛みから救われたという意味もあって願いが叶ってしまった皮肉も感じるしで、結末には喜びと悲しみ相反する複雑な感情を抱いた。