Kirsten九段下

ヤクザと憲法のKirsten九段下のネタバレレビュー・内容・結末

ヤクザと憲法(2015年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

東海テレビ製作のドキュメンタリー映画。

日本のドキュメンタリー史に残る作品。
テーマや演出を超越して、これを製作して放送・放映されたことが奇跡のような作品。土方監督および東海テレビの関係者、そして清勇会・川口会長には最大級の賛辞を送りたい。

コンプライアンスという名の締め付けが厳しくなる昨今、あえてヤクザを撮ろうと思い立ったのは、「ヤクザも法の下で平等である」と義憤に駆られたからなのか、「ヤクザのリアルが見たい!」好奇心からなのか。きっと両方なんだろう。

一方で川口会長としては、暴対法の施行以後、社会の強者から一転して弱者へと転落したヤクザの今を世の中に発信することで、世間に理解をしてもらえはしないまでも、少しでも受け入れてもらえればとの思いがあったのであろう。裏を返せばそこまで、彼らは追い詰められている。
現代において極道とは「進むも地獄、降りるも地獄」と見えたし、辞めたとて行き先のない組員たちを案ずる会長の苦悩が画面の内外から感じられた。

個人的には「ヤクザは必要悪」という意見にも賛同できない程度に、ヤクザと呼ばれる人達に対する嫌悪感を持っている。が、日本が法治国家である以上、日本国憲法はその他の法の上位に位置していて、そこに明記されている人権は何人たりとも守られなければいけない。そしてそこには当然、ヤクザも含まれる。
ヤクザに限らずだが、社会的な不寛容は「無敵の人」を生み出し、却って公共の福祉を害するのではないか。
親がヤクザという理由で入園を断られた子供が道を踏み外すのも自己責任で片付けてしまうのか。

現代の二極化や不寛容な社会に対する閉塞感について問題提起をするという意味で、この作品が世に公開されたのが「今」である必要があったのではないかと感じられた。

とまあ、小難しく問題意識を持たずに観ても、この作品の魅力は尽きない。
「拳銃ないんですか?」「…ないじゃないですか」の絶妙な掛け合いの間。
無茶な論理で撮影を止めようとするガサ入れの捜査員と、監視カメラの映像を撮り続ける執念。
親子以上に歳の離れた組員二人の奇妙な温かさを感じられる年の瀬の過ごし方。
「カッコいいヤクザ」ではないリアルを拝見できる、エンターテイメント的要素も含まれている。

この作品に携わったすべての方に敬意を表します。
Kirsten九段下

Kirsten九段下