アンダーシャフト

ナチス第三の男のアンダーシャフトのレビュー・感想・評価

ナチス第三の男(2017年製作の映画)
3.0
軍を不名誉除隊となったラインハルト·ハイドリヒが、ナチ党入党後いかにして親衛隊でのしあがり、暗殺されるに至ったかを描いた作品…とは言いきれない一本。

その一番の理由は、本作が二部構成になっているから。

前半は、前述の通りハイドリヒの挫折と成り上がりがメイン。
女性問題で軍を除隊したハイドリヒは、失意の中、社交場で出会ったリナ(後に彼の妻となる)の勧めでナチ党に入党。その後、ナチ党親衛隊指導者ヒムラーとの出会い、諜報部門立ち上げ責任者就任、スパイ活動と党内の反抗分子の摘発·抹殺、突撃隊将軍の粛清…と、諜報部門配属となってから、ハイドリヒはとにかくひたすら殺しまくります。
軍将校から転落し、諜報という新天地で頭角を現し、粛清と抹殺、統制と民族浄化に迷わず突き進むハイドリヒ。人間性が剥落して鬼畜化していくその様は、話が進むにつれ静かに殺気立っていき、どんどん薄気味悪くなってきます。

後半の物語は、2人の若者がチェコスロバキアの亡命政府からハイドリヒ暗殺の密命を受け、チェコ領内に侵入~ハイドリヒ暗殺の準備~暗殺実行~その後がメイン。

暗殺される側の群像と、暗殺する側の群像とが、暗殺決行に収斂していき、その後どういった結末を迎えるかというのが、この映画の建て付けです。

色調を抑えた絵作りは、物語にマッチしててとても美しく、かなり自分好み。陰鬱なストーリーとプラハの古びた寒々しい街並み、殺伐とした日常風景が、いい雰囲気で描かれています。

展開は、良く言えばテンポが良くドラマチック。言い方を変えれば、大河ドラマみたいな超長編を2時間に圧縮したような進み方。ちょくちょく説明不足なカットや情報が割り込んでくるので、そう感じたのかも。妻の出産シーンとか、ハイドリヒが息子と一緒に演奏するシーンとか、何か後につながるかと思いきやそうでもなく…
「東方の三博士(?)」の話が唐突に出てきたり…何度かあるベッドシーンは、はたして必要だったのか、とか…全体的に散漫な印象は否めないようです。

一人の男を通して、ヨーロッパを恐怖に陥れたナチスの狂気の凄まじさが痛いように伝わってくる本作。くれぐれもハッピーエンドを期待しないように。


〈余談〉
「アマデウス」を観た時も感じましたが、ドイツ人が英語で日常会話をするのは、どうしても違和感がありますね。