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さざなみのmOjakoのネタバレレビュー・内容・結末

さざなみ(2015年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

まず邦題が素晴らしいですよね。何か決定的な事が起こる訳ではないし表面的には2人の関係は穏やかなんだけど確かに波紋が広がっていくというまさにさざなみの様な映画だったので。

2人の心を僅かに乱す要因は1通の手紙。どうやら旦那が昔付き合っていてスイスで行方不明になった彼女が氷河の中から見つかったらしいと。序盤は昔の事だからと気にも留めない風を装うシャーロット・ランプリングと自分の本当の気持ちが妻に悟られることはないと高を括るトム・コートニーの演技が素晴らしい。そして2人が積み上げてきた45年間がたった6日間で静かに崩れていきます。
話は妻の視点で語られるので彼女が不安になり揺らいでいく様はよくわかる。一方で旦那が何を考え、どう気持ちが変わったのかなどはハッキリ明示されない。だけど妻にとって旦那の何が許せないのかはぼんやりと理解出来る気がしました。きっと彼女は旦那に昔結婚まで考えた女性がいたこととか彼がその女性に今でも一抹の気持ちが残っていること自体が嫌なんじゃなくて、その女性の存在によって自分たちの45年間という人生がいとも簡単に揺らいでしまうこと、あるいは自分が旦那にとって最も特別な存在であることはこれまでもそしてこれからも永久にないという事実を突きつけられることをこれ以上なく恐れているんじゃないかと。
そしてオープニングクレジットでは文字に合わせてカラカラという音が付いていて、その時点では何の音かわからなかったけど中盤明らかになるその音の正体に気づいた時に戦慄しました。あの瞬間にケイトは2度と元へは戻れない領域に入ってしまったと思うし、ラストシーンで最高に幸せなはずの彼女の表情が晴れることは決してありません。「卒業」のラストとかも連想したけどこの映画の主人公には「卒業」と違ってもう開かれた未来すらない訳で。それと最近だと男が本能的に持ってるものや性質に対する女性の憤りを描いているという点で「フレンチアルプスで起きたこと」にも近いかなと思いましたが、「さざなみ」の方が男の罪みたいなものがさり気ない日常の中にある分より厳しい話だなぁと思いました。

また新たな夫婦ものの傑作だと思ったし、視線の厳しさで言えばこのジャンルの中でも最高の部類じゃないでしょうか。主人公たちが老年ということもあり、じゃあどうすればよかったのか考えさせられ続ける作品です。
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