らいち

さざなみのらいちのレビュー・感想・評価

さざなみ(2015年製作の映画)
3.5
新作DVDレンタルにて。
結婚歴45年の熟年夫婦に訪れる危機を描く。時の流れは残酷でもある。冷徹な視点は2013年の「愛アムール」によく似ている。
結婚45周年のパーティを1週間前に控えた夫婦の元に、かつて夫の恋人であった女性の遺体が発見されたという便りが届く。それは今の奥さんと出会う前の話だ。50年前に夫がスイスの雪山を登山していた途中、一緒にいた恋人が転落し行方不明になる悲劇があった。その恋人を見つけ出すことができないまま、その後、現在の伴侶と結婚し仲睦まじい老後生活を送っている。夫の中では元恋人の姿は50年前のままで止まっており、50年ぶりに発見された遺体も零下の影響で当時のままの姿をしているらしい。「自分はすっかり爺さんになったのに」と、現在と過去の時間が交錯する。その様子を見た妻は「私と出会う前のこと」と気にしないが、これまで語られることのなかった夫の告白を知り、忘れかけていた嫉妬の感情を抑えることができなくなる。が、本作で描かれる夫婦の危機は妻の嫉妬に留まらない。屋根裏に夫の秘密が隠されていた。夫が眺めていたであろう、若き日の元恋人の写真。それを見つけた妻が映写機で見つめるシーンが残酷だ。老いて皺だらけとなった妻の顔面と、写真に写る若くて美しい元恋人の姿が対比される。夫婦の間には子どもがいないようで、2人で過ごした時間は濃密だったに違いない。しかも45年だ。その45年がもしかしたら幻想ではなかったか、と疑念が浮上する。その疑念は次第に大きくなり、夫に対する妻の愛情を浸食していく。映画ではその過程を、刻一刻と迫るパーティまでの日々の中でじっくりと描かれていく。
妻を演じたシャーロット・ランプリングが体内に潜んだ激情を生々しく表現する。クライマックスで感極まる夫に対して、己の感情を必死に抑え込む表情が何ともいえない。オゾン映画で馴染みがあるため、フランス人女優と思っていたが、元々は英国人女優とのこと。目つきが悪く見えるため気難しいオバサン役のイメージが強いが、若い頃の彼女の画像を調べてみたら、独特の目つきが妖艶に見えてかなり美女だった。アンチエイジングと老いに逆らうベテラン女優が多いなか、老いを受け入れる彼女の姿がカッコよく映る。
【65点】
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