わたぼう

The Red and the White(英題)のわたぼうのレビュー・感想・評価

The Red and the White(英題)(1967年製作の映画)
5.0
新文芸坐シネマテークにて。

邦題『赤と白』。

ヤンチョー・ミクローシュ特集。ハンガリーの姓名は日本と同じで、ヤンチョーが苗字とのこと。

『赤い讃美歌』でカンヌ監督賞を取ってるが、日本では未公開ばかりの隠れざる?ヨーロッパの巨匠。日本では1977年に岩波ホールで『密告の砦』が公開されたくらいらしい。

初ヤンチョーだったが、冒頭のショットから最高すぎて最後までずっと興奮した。

ロシア内戦の赤軍と白軍の争いが題材なのだけど、全然そのあたりの歴史をよく分からず。でもよく分からなくても滅法おもしろい。あとの解説トークで知るが、カッチリと制服着てるのが白軍、農民のような服が赤軍とのこと。後者の服が白なのでそっちが白軍かと思ってた。でもどっちがどっちの陣容でも、それが分からなくても問題なし。

さらにいうと主人公すらいないし、誰が誰だかもよく分からないけど、それも問題ない。だって、それが戦争なんだもん。殺して、殺されて、殺して、殺されて、ときには殺さない、の繰り返しで、映画は進んでいく。

長回しが特徴的な監督だが、ただ長回しをするのではなく、カメラが縦横無尽に動く。川あり森あり砦ありの広大な草原地帯を舞台装置にして、赤軍、白軍、コサック兵、ハンガリー人、村人たちが入り乱れる。『エルミタージュ幻想』のようなワンカットのカメラの動きがたまらない。『エルミタージュ幻想』は宮殿内だけだったが、今作は屋外なのでもっと広大に舞台を使っている。こんな壮大な映画は今では絶対撮れない。

川に沿って兵が追い、その手前の茂みに兵が隠れたり、川の奥の山から騎兵隊がやってきたり、多層なレイヤーの動きに加えて、横の動き、奥からの縦の動き、さらには斜めの動きなど、カメラの動きが本当に芸術的だった。

上映後、大寺眞輔さんの講義。本作は、作家主義映画が栄華を極めた60年代で、しかもロシアとハンガリー両国が出資した国策映画だったそうだ。両国の革命の周年で、ロシアの十月革命の正統性を描いてくれというオーダーだったようだが、完成したものは、全くそのような内容にはなっておらず。ソ連国内では別編集バージョンで公開されたらしい。ヤンチョーは命懸けでこの作品を撮ったようだ。(なぜ処刑されず無事だったかは謎)

タル・ベーラは、ヤンチョーのことをハンガリー史上最高の監督と讃えており、彼がいなかったらハンガリー映画は成熟しなかったとのこと。また、ヨルゴス・ランティモスが生涯の4本のひとつに選んでいる。その他の3本は『バルタザールどこへ行く』『ブルジョワジーの密かな愉しみ』『ハズバンズ』だそうだ。それを聞くと、この作品の重要な位置が納得できる。
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