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ハドソン川の奇跡のグラッデンのレビュー・感想・評価

ハドソン川の奇跡(2016年製作の映画)
4.2

2009年、ハドソン川に緊急不時着水することになった飛行機事故を、サレンバーガー機長の視点を中心に描いた作品。

クリント・イーストウッド監督の最新作。前作『アメリカン・スナイパー』の存在も記憶に新しいところですが、調べてみると、約1本/2年ペースで新作を世に送り出していることに気づかされる。脚本を執筆しないこと、早撮りであることも有名であるが、80歳を超えても映画製作に強い意欲を示すイーストウッド監督の姿勢にリスペクトしかない。

本作『ハドソン川の奇跡』(原題『SULLY』)は、取り扱ったテーマや切り口というのは、監督のフィルモグラフィーの中で何度も取り扱われてきた、事件・事象の現場にいた人間の決断・行動を題材にしており、その後のフォローを交えて、時系列と多角的な視点を駆使して緻密に描いています。

本作でフォーカスされるのは、ハドソン川への不時着を決断し、155人を救ったサレンバーガー機長。バードアタックによる両エンジン停止、低高度の事故発生等、あらゆる点で想定外の事象に対峙しながらも、長年の飛行経験と見識を活かして考えうる最善の策を講じていきます。

事故をリアルタイムではなく、回想によって導入することにより、機長の搭乗から救出後までの出来事を時系列ごとに細かく伝えていたことは、作品の出来事が実話であるという重みを改めて感じることができます。情報量も多かったにも関わらず、上映時間はコンパクトにまとめられておりましたので編集の上手さを感じました。

また、PTSD(心的外傷後ストレス障害)に悩まされる人たちの葛藤を過去にも何度も取り上げてきた監督だけに、本作でも事故後の機長の葛藤を丁寧に描いていた点は印象に残りました。検証を通じて、自分の判断が正しかったのかを何度も問いかけるようにイメージの飛行機を何度も飛ばし、事故当時の出来事を何度も振り返ります。彼が抱えていた重圧を共感することができたと思います。

報道を通じて伝えられる各地の戦争、あるいは事件・事故にしても、一見テレビの画面の中で繰り広げられる遠い出来事のように感じますが、その中には確実に人の存在があります。『アメリカン・スナイパー』の主人公となった狙撃手がそうであったように、我々と同じ生身の人間が判断・行動しているという事実を受け止めるとともに、人間だからこそ機械や数字上の世界では図りしえない「人的要因」があることを理解しなければならないと感じさせる映画だったと思います。