そーた

ハドソン川の奇跡のそーたのレビュー・感想・評価

ハドソン川の奇跡(2016年製作の映画)
3.8
抑えの効いた名演

映画って熱量を持っていると思うんです。
その熱量が人の心を動かすんであれば、必ずしも熱量が大きい方がいいとは限らない。

少ない熱量でも人の心は動かされる。
この映画がまさにそうでした。

「ハドソン川の奇跡」ともてはやされた実際の飛行機事故をベースに当時の機長に向けられた疑惑。
真実の行方を描いたヒューマンドラマです。

この作品。
正直そこまで感動的でもなければ、
娯楽性が高いわけでもないんです。

感動の度合いであれば、話の展開が似ているデンゼル・ワシントンの『フライト』の方に軍配があがるし、
娯楽性でいえば、実話ベースでトム・ハンクス主演という点が共通の『キャプテン・フィリップス』の方が抜きん出ている。

この二つと比べると今回の映画の持つ熱量は明らかに少ない。

かといって冷めている訳ではなく、
退屈な訳でもないんです。

むしろ、話の構成がよく出来ているので引き込まれてしまう。
ラストの抜群の緊張感が支配する公聴会のシーンは見ものでした。

でも、全体を通して熱っぽさがない。
どこか、冷静なんです。

これね、恐らく先程挙げた作品とは語られている次元が違うからなんだと思うんです。

剥き出しになった人間味と、
理性で覆われた人間味。

同じ人間味でも被覆のあるなしで、外部に与える熱量は異なるでしょう。

職務に対する真摯な姿勢。
そして、真摯だからこその熟練味。

それらを理性的と極論してみれば、熱っぽい人間味よりも、クールな判断力やその判断力に対する確固たる自信にスポットが当てられる。

抑えの効いた熱量の秘密はここにあるんじゃないでしょうか。

「機長は乗員乗客全員の幸せに責任を負っている。」

事故当時にニュースで紹介されていたサレンバーガー機長の言葉です。

この言葉の理性的な印象の裏には機長の熱い人間味が隠されているように思えます。

事故後、いつまでも制服を脱がないでいる機長の描写があります。
これって理性的であり続けようという姿勢の現れなのかもしれません。

でも、155人の安否が確認できた瞬間、理性の裏に隠された人間味が少し顔を覗かせる。

心動かされた瞬間です。

こんなトム・ハンクスの名優っぷり。
抑えの効いた演技だからこそ際立っていた。
彼の演技の幅を見せつけられたかのような作品でした。

フィリップス船長とサレンバーガー機長の架空の対談。
トム・ハンクスの一人二役でやったら面白そうだ。

こんなアイディアどうです?
そーた

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