TaroSonoda

リップヴァンウィンクルの花嫁のTaroSonodaのレビュー・感想・評価

4.1
これほど感想を書くのが難しい映画もないと思います(笑)。
終始不思議な感覚になる、文字通り不思議という言葉しか出てなこないそんな作品です。
恐るべし岩井俊二!

まず、この映画の特筆すべき点は豪華役者陣による演技だと思います。主演の黒木華さんは瑞々しさと芯の強さを両方兼ね備えた難しい役を上手く演じきっています。

“何でも屋”の綾野剛さんも、人間らしさがほとんどなくおどろおどろしい役の安室を大胆かつ繊細に演じています。今回この安室が1番この映画で印象に残りました。

真白役のCoccoさんも歌手のイメージが強く、出てきた時少し不安もありましたが、家を捨てたAV女優と、これまた難しい役を他の人には出来ない演技で、この映画の独特の世界観に強くアクセントを与えています。

他にも、俳優だけではなく、あらゆる業界の著名人が出演していて、映画の規模にしてはオールスターキャストといえます。RADの野田さんもピアニストとして登場しています。
そして、何といってもりりぃさん。本当に少ない登場時間ですが、登場時のインパクトに関しては、この映画で随一だと思います。

ストーリーに関しては、黒木華さん扮する七海の結婚から、その転落までが前半部分で丁寧に描かれています。中には本当に胸を打つ哀しいシーンも多くあり、かわいそすぎると感じました。
特に途中何もかも奪われた七海の「自分の場所がどこか分からない」と言うシーンは、背後で流れるクラシックも相まって、とても心に残るシーンでした。

後半は、Coccoさん扮する真白との不思議な生活が中心となります。作品の世界観もここで変わり、少しずつリアリスティックからファンタジーな世界へと誘われます。
少し冗長であると感じた前半部分も、七海の性格や生い立ちを丁寧に丁寧に説明することによって、この後半パートをより印象的に際立たせる準備であったのかなと時間を置いて感じました。

また、演出面に関しては、長回しやクラシック音楽を使って独特な退廃感を生み出しています。
しかし、カメラワークは、この作品の中で長回しだけではなく、細かいモンタージュや定点カメラ、クレーンショットなど凝っていて、一見地味な作品ですが、実は物凄く計算されているなと感じました。

確かに、この映画何が言いたいのと言われると正直あまり分かりません。
しかし、個人的に感じたのは、真白もセリフで言っていた様に、それぞれどんな形であれ幸せなことはあるということです。
前半部分、七海は社会的には本当に墜落してしまいますが、だからと言って幸せな結婚生活であったかと言うと違います。
逆に、AV女優と社会的にはイメージの大変悪い真白との生活は、生命の喜びを感じた様に七海は生き生きとしています。

クライマックスの飲酒シーンは正直びっくりしましたが、無垢に幸せを感じることこそが人生で重要であると伝えているのかなと感じました。

ラストの終わり方も、この不思議な世界から主人公が辛い現実と前向きに向き合うラストで大変素晴らしいです。

長尺で解釈がいくらでも出来て、少し敷居が高いかもしれませんがオススメの作品です。
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