紅梅シュプレヒコール

凱里ブルースの紅梅シュプレヒコールのレビュー・感想・評価

凱里ブルース(2015年製作の映画)
3.8
「釈迦は須菩提に告げた
これらの世界にある限りの生き物たちの種々様々な心の流れを私は知っている
なぜなら
心の流れは流れではないと如来は説かれているからだ
だからこそ心の流れと言われるのだ
それはなぜかというと
過去の心は捉えようがなく
未来の心は捉えようがなく
現在の心は捉えようがないからだ」

金剛般若経より引用


冒頭で上記の一説が引用されることから解る通り今作において“流”は重要な要素となっている

感覚的なものであり、目に見えぬ“流”というものを随所でイメージ的なショットを用いて表現しているビー・ガンのセンスと映像表現に対する意欲さに感嘆させられる一作

全体的に静謐な作品であり、物語的に大きな盛り上がりなどはないが、それでも観るに耐えられるのは計算された構図やライティング等を駆使した見事な画作りがあるからだ

映像と音で表現できる映画という形式を利用しているにも関わらず台詞にばかり頼る作品が多い昨今で、真摯に映像表現に対して向き合って描かれている今作は万人ウケするような作品ではないが、一見の価値のある傑作であることに疑いはない

中盤以降から展開される驚異の長回しばかりに目が行きがちだが、作中で撮られているショット全てに一切の妥協はない

煙や水、火といった自然の動きを取り入れ、退屈な画面を作らないと同時にそこにイメージを持たせる手腕に感心させられる

映像表現に興味がある方には是非とも観てもらいたい作品