青二歳

ビハインド・ザ・コーヴ 捕鯨問題の謎に迫るの青二歳のネタバレレビュー・内容・結末

4.8

このレビューはネタバレを含みます

シーシェパードというビジネスモデルが世の中から消滅することを願ってやまない。とんだ経済ヤクザ。食文化のみならず和歌山の漁師の自尊心を侵したこの団体を許さん。
捕鯨問題について広く取材しシーシェパードの欺瞞を暴くことを試みたドキュメンタリー。だからタイトルが“ビハインド・ザ・コーヴ”(ザ・コーヴの裏側)。
この企画を知ってすっっごい期待していた反動もありますが、申し訳ないけど最初に言います、びっくりするほど上手くはないドキュメンタリーです。どうも監督さんは映像作品を撮ったのが初めてということです。彼女のキャリアがイマイチ謎ですが…個人的な義憤から取材を始め、その中で初めて“ザ・コーヴ”の舞台となった和歌山県太地町を知ったということですから、青写真をもって取材を始めた訳ではないんですね。だから仕方ないと思うし、取材して行き着いた所をぜんぶ盛り込みたいというお気持ちからこの作りなんだろうなと。

いや〜…まさかプロパガンダドキュメンタリーの“ザ・コーヴ”がアカデミーとるとはね…捕鯨問題についての包括的なドキュメンタリーはありませんから、その意味ではたいへん意欲作で評価したいドキュメンタリーです。続編も期待しております。もう少し…うまく編集してくれれば…DVD化も期待してますんで、その際はもう大長編になっていいからうまく再編集してください…盛り込みすぎて英語の資料を読む前に次の画面に行っちゃう…あと時系列がやや分かりにくい…

とまれ何より日本側から発信することに意味がある。いや中立的に言ってもシーシェパードだけの言い分であんなふざけたドキュメンタリーがアカデミー賞とったんですよ。これにアンチテーゼを訴えないでどーする。もう捕鯨問題は利権に満ちたイデオロギーになってしまった以上、中立的なドキュメンタリーは作れませんでしょう…
今作は結構攻めたオチに持っていきますので、そこはもう少し丁寧な運びが欲しかったとは思うものの(その結論を大枠で支持する自分でさえ2段階ほど論理の飛躍を感じた)、これでいいんでしょう。“ザ・コーヴ”がアカデミー賞とれるんだから。

続編への期待を込めて……鑑賞中の心の叫び…クジラ塚をもっといっぱい映してほしい!!ついでにブタ供養や馬頭さまも。農大とかにある慰霊碑も!(研究機関のはたぶん無宗教の碑だが)
日本人は炭水化物の消費量が多く、諸外国に比べタンパク質の消費量は格段に低い。米大好き過ぎるから。そのタンパク質のうち動物性タンパク質をどう摂取しているのか?“いただきます”といい、神に“日々の糧”を感謝するのではなく、その命そのものに感謝し頂戴する。だから命を頂戴する前線に立つ生産者には馬頭さまの信仰があり、慰霊してきた。
そんなことも知らないで日本人イコール残虐だと告発するシーシェパードその他環境団体。殺して命を頂戴する以外にどうやって“食べる”んですか。それを残虐だと。
太地町漁師の方の弁だったかな、「数十年前はアメリカだってクジラとってたんだよ?クジラって数十年で賢くなったんだね」には爆笑。クジラすごいよ、超進化だよ。そう、昔はクジラとイルカは賢いから殺すのは残虐だと言っていたシーシェパード。なんといつの間にか方向転換していました。“魚は水銀があるから毒、だから魚を食ってはいけない”。“人類は菜食主義になるべきだ”。と一切の肉食を否定する論理になってました。
これが一番の衝撃だった…「賢いから可哀想理論はどこいったんだ!未だ可哀想路線で動画配信してるくせに!」「勝手に野菜くってろ!その野菜の肥料の大部分は魚粉から作ったものなんだぞ!その野菜にかけるドレッシングのコンソメや旨み成分は牛豚骨粉由来だろうが!」「欧米人の食生活で完全な菜食主義を通せるならやってみろ!」
と心の中でこの欺瞞家たちに罵倒しちゃいましたよ。可哀想論理捨てて、肉食反対路線で攻める気らしい。ケッ!嘘つけ。可哀想路線で資金集めしてるくせに。

命をいただく以上、無駄にはしない。だってそれは“モノ(object)”じゃないから。“クジラに捨てることなし”。素晴らしいことです。鯨油だけとって他を廃棄するなんて、動物への敬意がない。モノという認識だからそんなことできるんでしょう。日本には連綿と続く歴史の中で動物への敬意が根本にあったのに(近代の合理化された畜産における経済動物にも慰霊してきた)、それを無視して自分だけ博愛主義者動物愛護のような顔をするなと言いたい。鯨油のため乱獲したことを棚に上げて、近年になって動物愛護?シーシェパードの欺瞞の根底は、どこまでもヒューマニズム(人間中心主義)があること。これはキリスト教圏ならではでしょうね。それを否定したくはないけれど、わざわざ日本まで来て押し付けてくるのはやめてもらえませんかね。
町会議に出席したシーシェパードリーダーの娘の発言「わたしたちは太地町の皆さんがいい方向へ進むお手伝いをしたい」…お前はどこの会派の宣教師だ。未開な日本人、未開な太地町の漁師の“蒙きを啓く”おつもりのようです。しかも「今は20世紀だ、色んな職がある、クジラ漁、漁師をやめて転職すればいい」。本当に“人間”をバカにするのもいい加減にしろ……同じセリフをテキサス州(日本国土1.8倍)のカウボーイに言ってこい。ぶん殴られるだろうが。ついでに北欧や韓国や南米でクジラとったりイルカ(漁師にとっては害獣にもなりうる)殺してる非日本人にも同じこと言ってこい。

えー、言いたいことは尽きませんが…続編に期待しております!!上映前にお越し下さり監督さんの情熱を感じました。DVD化待ってます〜
確かにわたしはクジラに馴染みのない世代なので(しかも関東都市部育ち)、監督さんのように自分の食文化を侵されているというリアリティは持っていない。クジラの刺身は好きだけど高級食材の認識の世代。しかし、シーシェパードによって今日本にインカ帝国の宣教師が来ていることに危機意識がある。こんな論理がまかり通るなんて、キリスト教圏が犯した歴史の愚行を焼き直して繰り返しているばかりじゃないか。ぜんぜん未来志向じゃない。
歴史の評価や認識は、みんな自国を大切にすればいい。キリスト教圏がキリスト教的世界観を持ってることにも文句はない。しかしそれを他国に押し付けることはいけない。主張するのはいい。言論の自由がある。でも、それは双方にある。シーシェパードのやり方は…弾圧しかしていない。
青二歳

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