tamashii

君の名は。のtamashiiのネタバレレビュー・内容・結末

君の名は。(2016年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

このコメントを書いてる時点で(2016.8.30にコメントを修正している時点で)、これの平均スコアが4.5(4.4)で、シンゴジラが平均4.2。キャラは可愛いけど、この映画にそんなに高い点数がつくのは納得いかなくて、絶賛され過ぎていると思う。というのも、この作品は物語としてはかなり出来が悪く、映画全体ではそれほど良い作品ではないと思うから。

まず、メインテーマであるはずの恋愛がうまく描けていない。
瀧が奥寺先輩を好きになるのはわかる(なにしろ長澤まさみだし)。しかし、なぜ三葉を好きになったのかわからない。結局、おっぱい揉めない美人より、おっぱい揉める田舎娘の方が良いってことなのか?しかし、奥寺先輩は一緒にデートしてくれて、さらに飛騨の山奥までついてきてくれたんだぞ?あんな可愛くて性格も良い先輩を好きにならないなんておかしいよ!

また、実は恋愛の話ではなく少年少女の成長の話なのだと考えるのは無理がある。三葉は親と対立していることが冒頭で描かれていて、最終的には、町を救うために親を説得することになる。これは瀧君との交流を通じて成長し、その成長によって対立を乗り越えたように見えるかもしれない。しかし、瀧君との交流を通じて三葉がどう成長したかが描かれてない。結局のところ、瀧君と出会わなくても、彗星が衝突することさえ知っていれば親を説得しようと試みるに違いない。
(逆に、瀧君の方は、三葉との交流を通じて恋愛に関して意見を変えたので、ある意味成長したのかも。)

3.11との関連づけ、あるいはシンゴジラとの対比で見ると、この映画は巨大な危機に対してわれわれがどう立ち向かうかを描いているように見えるかもしれない(個人的には、この映画はそういうことを描く意図は全くなくて、正反対に、ごくごく個人的な恋愛を描きたい映画だと思うのだが)。もしそういう観点からみるとすれば、この映画は主人公たち以外の多くの人の生活や努力をどうでもよいものとして片付けている点でマズイと思う。

まず、彗星の落下について天文学者が予測を外すとはどういう事態なのか?科学的に安全だと言っていたものが、実際には多くの人の命や故郷を奪うものだったということだから、この事態は原発事故と類似性があるように見える。しかし問題は、この事態をどうやって対処するのかだ。例えばシンゴジラでは、自衛隊を頼るか、アメリカを頼るか、会議で決めて対策を進める。一方この映画ではどうかというと、なんだかよくわからない神秘的現象で未来のことがわかったので、みんなを高校に避難させるための「イタズラ」を企むことになる。

危機への対処を描く映画では、どの対処が成功してどの対処が失敗するか描かれる。そういう映画だとすると、この映画で成功する対処は、現実にはやってはいけないだろうということが気にかかる。彗星による危機は3.11と原発事故を思い起こさせ、さらに、三葉たちの案は原発事故後の強制避難の問題を思い出させるからである。町民を事前の情報提供や同意なく避難させることがどれほどマズいことなのか考えてみれば、簡単に強制避難などさせてはいけない。極端な例え方をすれば、3.11の前日に戻れたからと言って、帰宅困難地域になる予定の人たちを事前に強制避難させるのが良いのかという問題だ。そうやって「救われた」人たちは、その後、故郷を離れてどうやって生きていくのだろうか?ちょっと考えれば、事態は簡単ではないということに誰でも気づくだろう。要するに、彗星を原発事故に読み替えるなら、強制避難を拒む大人たちにはそれなりの事情があるはずで、三葉たちはそうした事情を無視して勝手なことをしているように見える。
(もちろん、彗星が落ちればすぐ死ぬ一方、強制避難地域に残るのはすぐに死ぬわけではないとか、状況にはけっこう違いがある。でも、ここで言いたいことは、3.11のメタファーを使って、危機にどう対処すればよいのか描くとすれば、現実に起こっている問題を無視するのはまずかろうということ。)

男女入替とタイムスリップを組み合わせるというアイデアは良いと思うし、女の子は可愛い(特に先輩が!)。だからこのくらいの点数はつけたい。

新海監督は、基本的に恋愛と風景しか興味がないんだと思う。そういう人が面白い恋愛映画を作ってくれるのは構わない。例えば秒速5cmはよくできていると思う。しかし、この作品は、描かれている物語のデキが悪く、絵がキレイだとか音楽が良いとかプラスのポイントがあったとしても、総合的にはあまり良い作品ではないと思う。
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