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君の名は。のsghrytのネタバレレビュー・内容・結末

君の名は。(2016年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

愛する人を助けられなかった主人公は、奇跡を起こして愛する人を助けることができる。言いかえれば、観客が助けられなかった愛する人を、主人公が代わりに助けるということだ。映画が終わった瞬間、観客は愛する人を助けられなかった自分、過去をやり直す奇跡が絶対に起きない自分を突きつけられる。これほど残酷な映画はない。

際立った特徴は二つ。

一つは、視点の時間的なズレだ。災害をモチーフにしているため、映画に登場する現代の街並みは「やがて失われるもの」あるいは「すでに失われたもの」として描かれている。つまり、未来から現在を描いている、あるいは現在を過去として描いているということだ。

その意味で現代の街並みは美化されている。しかし、その美化は厭らしさを感じさせず素直に受け取れるものに仕上げられている。それが可能だったのは、「愛おしい」(いと惜しい)という監督の視線が貫かれていたからだろう。そして愛おしむということこそ、無常に対する日本人の伝統的な処し方なのである。

もう一つは、神話の反復だ。本作には古事記のモチーフが多用されている。たとえば、男女の出会い方である(イザナギ・イザナミ)。男から女に声をかけなければ男女の出会いは成立しない、これがルールだ。

ヒロインが主人公に会いに行った時に出会いが成立しなかったのは、このルールを破ったからである。だからこそ、二人が出会うラストシーンでは、ヒロインは自分から主人公に声をかけなかったのだ。そのおかげで主人公から声をかけられた時、ヒロインは喜びもしなければ嬉しがりもしない。ただホッとする。それは「ルールに則って、やっと出会いが成立した」という安堵なのである。

本作が記録的ヒットになったのは、311後に剥き出しになった無常、それゆえ切実になった愛おしさを、日本人の基層にある神話の鋳型で精製したからではないか。大げさに言えば、現代の日本神話を作り直したということである。
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