『パラレル』『ダークレイン』と秘かに話題になっているメキシコのイサーク・エスバン監督作品。ファンタ系映画祭で好評を博した。
なぜかアマプラに吹替版しかなく、字幕版は課金しないといけないという謎仕様。圧倒的字幕派としては辛い。
低予算の割になるほど確かによくできている。捻った脚本が面白い。冒頭の意味深なシーンの繋ぎ、そして部屋へ入っていく男を後ろから捉えたショットへと続くアート映画的手法はなかなか。
不条理系サスペンス、と思いきや予想外の着地をみせる。展開力があり、ジャンル映画として満足度が高い。低予算ながら撮影や美術も頑張っている。
トランプや竹といった伏線もなるほどそうきたかという感じ。ただフィリップ・K・ディックの本は直接的すぎるような。話として繋がりがある、というのは最後まで観ると分かるけれど、なぜあの人物が持っているのかよく分からない。キャラからするとおよそ似つかわしくないような。
今生きているこの世界は本物なのか、というディック的なアイデンティティを巡る話でありつつ、絶対に抜けられない搾取を暗に描いているようでもある。斜め上へと展開する脚本力はなかなかのもの。
しかしながらそれを全部セリフで説明してしまうのが残念。延々と説明台詞が続くのが長すぎる。必要な説明なのかもしれないが、もう少し映像で分からせてくれる部分があっていい。
あと最後のボーイと新婚夫婦は蛇足だと思うな。あの展開がなくても成立するんだから、仄めかす程度で終わらせておいた方がスマートだった。
全体としてはB級サスペンスとしては出来がいい。秘かな人気になるのも分かる。全然期待していなかったけどなかなか楽しめた。