Takhio

海よりもまだ深くのTakhioのレビュー・感想・評価

海よりもまだ深く(2016年製作の映画)
4.5
「なんで男は今を愛せないのかねえ いつまでもなくしたもの追いかけたり かなわない夢見たり そんなことしても人生楽しくないでしょう」
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微妙にネタバレしてるかもしれません。でも多分してないと思いますが嫌な人は...。




ストーリーといい情景描写といいセリフといい、溢れ出る重松清感......。「夫婦の形」「野球」「すれ違い」「父と息子」....こんなん重松清やんけ.....。

禅宗の言葉に「知足」という言葉があります。足るを知る、つまり自分の身分を弁えて、貪りの心を起こさぬという意味ですが、極めて難しいことです。

心の中ですっぱり断ち切ろうと思っても欲というのはなかなか簡単にカラダから離れてくれるものではありません。離婚した妻への未練、元嫁の新しい彼氏への嫉妬、ギャンブル欲...阿部寛は本当に見事に、「ダメ」な男を演じています。しかしどこか応援したくなってしまうところがあるのはギャンブルも元嫁へのストーカーも全て愛する人のことを思ってのことだから。野球で使うスパイクを買ってあげたい、どこの馬の骨かもわからないクソ男に自分が愛した人を取られるのが心配....そういった心持ちがあのような行動を起こしてしまうのです(もちろんそれはめぐりめぐって自分の為であると言えてしまうし、だからこそ姉も元嫁も彼を突き放しているのですが)。どうしようもないほどの情けなさが、彼をドクズだと一言のもとに否定出来ない気もします...矛盾してるようだけど多分共感してくれる人いるんじゃないかなあ。

「女性の恋愛は油絵である」とある人物のセリフがあります。新しい色をつけたら前の色は見えない。キャンバスには残ってるけれど新しい恋が始まれば(一旦は)見えなくなるのだ、と。
男性の恋愛は水彩画なのでしょうか.....。これは感ずるところ有りで涙ちょちょぎれです....。

「振らなきゃ当たらないだろ」「フォアボールを狙ってたんだもん」という重松清もびっくりの重松清感溢れる応答がありますが、もし自分に息子ができて「フォアボール狙ってたんだよね」って言われたらなんて答えるかなあとしばらく考えました。
自分が歩んできた道もまさにフォアボール狙いの人生。それを否定するつもりはないけど、やっぱりスポーツで、そして小学生でフォアボールは狙って欲しくないなあと最初は思いました。でもなんでフォアボールを狙ってはいけないんだろう、どうして年少者が安定を求めると人は批判するだろう、そう考えると分からなくなってきます。根性で上を上を目指せという日本的な考え方なのだろうか...それとも今までフォアボールを狙ってきた大人たちが同じ道を歩んで欲しくないから子供に諭すのだろうか...。

テレサテンの歌が流れるシーンがいちばんのお気に入り。何度もみたくなるスルメ映画です、、、。

是枝監督作品のキャストは本当にお芝居が見事です。真木よう子の棒読み感もあの役柄には合ってる気もします。笑
樹木希林はもう、樹木希林が泣いてるだけで僕も涙腺緩むくらいに怪演です...。
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