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ダンケルクのkatsuのレビュー・感想・評価

ダンケルク(2017年製作の映画)
4.2
この映画……創造を超える完璧さ!!!

2008年『ダークナイト』
2010年『インセプション』
2014年『インターステラー』

そして、2017年……新たなる究極の映像体験が日本を席巻する!

新作ごとに圧倒的な映像表現と斬新な世界観で、観る者を驚愕させてきた天才クリストファーノーラン監督。
彼が、初めて実話に挑んだ本作は、これまでの戦争映画の常識を覆す、まったく新たな究極の映像体験を突きつける。

そう、この監督は考えることが違うのだ。

上映開始とともに動き出す時計の針のカウントダウン。
陸海空それぞれ異なる時間軸の出来事が、一つの物語として同時進行。
目くるめくスピードで3視点が切り替わる。
これぞノーランの真骨頂!
99分間ずっと360度神経を研ぎ澄まさないと生き残れない、一瞬先が読めない緊張状態が続く究極のタイムサスペンス。

バラエティ誌が「オスカー候補となるべき今年No.1の映画」、ガーディアン誌が「ノーランの最高傑作」と評した本作を観ない理由が見つからない!

★INTRODUCTION

「ダークナイト」「インセプション」「インターステラー」など、次々と新たな映像世界を生み出す鬼才クリストファーノーラン監督(兼脚本・共同製作)が初めて実話の映画化に挑んだ緊迫感あふれる戦争ドラマ。
第二次大戦史に残る、史上最大の救出作戦”ダンケルクの戦い〈ダイナモ作戦〉”を基に、独軍に追いつめられた英仏軍40万人の生き残りをかけた奇跡の撤退作戦を、陸海空それぞれ異なる時間軸の出来事が一つの物語として同時進行するサスペンスフルな方式で描く。

出演者は、ノーラン作品の常連トムハーディー、キリアンマーフィーの他、英国のベテラン演技派ケネスブラナー(「マリリン 7日間の恋」)、マークライランス(「ブリッジオブスパイ」)らに加え、人気グループ”ワンダイレクション”のハリースタイルズ、フィオンホワイトヘッド、トムグリンカーニーといった本作で俳優デビューを飾る若手たち、さらにジェームズダーシー、バリーコーガンらが共演。

撮影は「インターステラー」のホイテヴァンホイテマ、音楽は「ダークナイト」のハンスジマーとこちらもノーラン監督作の常連がスタッフを務める。

★STORY

1940年、フランス北端のダンケルク港に、ドイツ軍によって追い詰められた英仏連合軍40万の兵士が停滞していた。
逃げ場のない状況で彼らは生還を諦めていなかった。

市街戦から辛くも逃げ延びた若い兵士トミー(ホワイトヘッド)。
ダンケルクの浜辺に向かった彼は、自身の命運を待つ何十万もの兵士たちと身動きが取れなくなる。
英国海軍ボルトン中佐(ブラナー)はその中で英国軍救出の手を待っていた。
彼に知らされたのは民間船も含めたドーバー海峡にいる全船舶を総動員した救出作戦の決行。
だが残された時間は限られていた。
一方トミーはそこで出会ったギブソン、アレックス(スタイルズ)といった仲間と何とか救出船に乗ろうと画策する。

その頃、兵士たちを救うために、ミスタードーソン(ライランス)と息子ピーター(グリンカーニー)のような民間人も自らの小型船をダンケルクに向けていた。
彼らは頭上に英軍機スピットファイアが飛んでいるのを見て勇気を奮い立たせる。
スピットファイアのパイロット、ファリア(ハーディー)らは襲いくる敵機から味方を必死に守っていた。
果たして敵軍の迫りくる猛攻から、膨大な英仏兵士たちは生き延びることができるのか?

★COLUMN

❶ダンケルクの戦いとは
→1940年5月、英国海軍派遣軍が仏、ベルギー、カナダの部隊と共にドーバー海峡に面した仏の港町ダンケルクの浜辺に追いつめられた。
遠浅のため英軍の大型艦船は浜辺に近づけず、兵士たちは故郷までわずか42キロの地点で足止め。
そんな時、撤退作戦援護のため民間の小型船も招集された。
コードネームはダイナモ作戦。
900隻もの民間船の協力で起きた奇跡を”ダンケルクスピリット”と英国人は呼び、今もこの不屈の精神を誇りにしている。

❷ダンケルク作戦を描いた作品
→1958年に製作された英国映画「激戦ダンケルク」は、同様にダンケルク撤退作戦を描くが、ノーラン版よりも敗け戦という色合いが濃く、この失態を基に英軍が本気を示すようになったという感じの方が強かった。
64年にはジャンポールベルモンド主演のフランス映画「ダンケルク」が製作。
逃げる英軍に連れていってもらおうとする仏軍兵士の視点で描かれているので、また味わいが違う。
近年では「つぐない」(07)の中で、ジェームズマカヴォイ扮する主人公がフランスへ送られる設定で、この作戦が描かれている。

❸ノーランがこの映画を作った理由
→1990年代半ば、ノーランと共同製作のエマトーマスは、ノーラン所有の小型船でダンケルクを訪れた。
ところがドーバー海峡を渡るのに19時間もかかり、『爆撃がなくてもこんなに困難なのに、民間人が小さな船で戦場へ向かおうとするのは、どれだけすごいことか』と、それまでの歴史的認識を覆される思いを抱いたことが始まりだと監督はいう。

♣︎クリストファーノーラン監督の作家性を探る

全米で大ヒット、そして次期アカデミー賞候補の声もかかる高評価ぶりで、日本上陸が待たれる「ダンケルク」。
これを生み出した現代の巨匠クリストファーノーランの特異な作家性について考察していこう!

♧一つの映画に異なる『時間』の流れを持ちこむ

1998年の長編デビュー作「フォロウィング」から19年。
アメコミ映画史上の金字塔「ダークナイト」三部作など、作品ごとに世界中の注目を集めるクリストファーノーラン。
毎回、迫力ある映像に加え、重厚感あふれる奥深い人間ドラマで、観客を魅了し続けている。
ちょうど10本目の長編監督作となる「ダンケルク」も、戦争映画初挑戦ながら、ノーランらしさにあふれた作品だ。
では一体、クリストファーノーランとは、どんな映画監督なのか。

彼のフィルモグラフィーを眺めてみると、ます浮かび上がって来るのは「時間」というキーワード。
出世作「メメント」(00)は、記憶が数分間しか持たない男を主人公に、時間を遡って殺人事件の真相を探っていくという型破りな構成で大きな注目を集めた。
他人の記憶の中に潜り込み、アイデアを盗み出す産業スパイを主人公にした「インセプション」(10)では、数階層に分かれた記憶の奥深くに潜るにつれ、時間の進み方が遅くなるというユニークなアイデアを映像化。
「インターステラー」(14)では、宇宙に旅立った男が、地球とは異なる時間の流れを体験した結果、自分より年老いた娘と再会する。
このように、ひとつの映画の中に異なる時間の流れを持ちこむ語り口は、ノーラン独特のもの。
この手法を生かした「ダンケルク」は、まさにノーランにしか作れない戦争映画と言っていい。

♧CGよりも実写撮影にこだわりを

一方、映像面における特徴は、実写撮影に対するこだわり。
作品毎に驚異的な映像で観客の度肝を抜くノーランだが、CG全盛の現代においてなお、実写にこだわって迫力満点の映像を生み出している。
典型的な例が、「インセプション」における回転するホテルの廊下での格闘シーン。
通常なら、グリーンバックで撮影した俳優の演技にCGの背景を合成してもおかしくないところだが、ノーランは回転する大掛かりなセットを作ってこの場面を撮影した。
世の中には「ノーランはCG嫌い」との評判も広まっているが、実態は少し異なる。
より正確に表現するなら、「リアリティを追求するために極力、実写で撮影し、不足する部分をCGで補う」ということになるだろう。
「ダークナイト ライジング」(12)中盤の見せ場となるアメフト競技場の爆破シーンでは、実際の競技場に選手や観客を集めて撮影した映像にCGの爆破を合成。
さらに、8万人収容の客席を埋め尽くす観客は、1万2千人のエキストラ(これだけの人数を集めるのもすごいが)の映像を加工して作り上げた。
また、必要に応じてミニチュアを使うことも少なくない。

だが、中にはCGでしか作れない映像もある。
「インターステラー」に登場する巨大なブラックホールなど、宇宙空間の映像はもちろんCG。
とはいえ、ノーランらしいのは、その映像を宇宙船のセットの窓の外に投影し、それを見ながら俳優が演技するというやり方をしていることだ。

♧フィルム撮影、特にIMAXを重視

徹底したリアリティ重視の姿勢は、衣装や設定など細部にまで及び、「ダンケルク」では、当時の戦闘機”スピットファイア”の実物を撮影に使用。
こういった点からは、伝統を重んじる英国紳士らしさも感じられるが、外見的にそれを強く印象付けるのが、いつも身に着けている黒いスーツ。
いかにも英国紳士然とした装いだが、「寄宿学校に通っていたので、慣れてしまったから」というノーランの言葉はちょっと意外な気も。

さらに、実写映像に対するこだわりと併せて知っておきたいのが、フィルム撮影、特にIMAX重視の姿勢だ。
多くの映画がデジタルで撮影されるようになった今でも、ノーランはフィルムに対する愛着が強い。
「ダークナイト」(08)以後は、「インセプション」を除くすべての作品で35ミリフィルムカメラと併用して、より大型のIMAXカメラを使用。
必要に応じて改造したり、レンズを新しく作ったりするほどのこだわりを見せている。
「ダンケルク」では、全編を35ミリよりも大型の65ミリフィルムとIMAXでの撮影に挑戦。
狭い戦闘機のコクピットにIMAXカメラを設置するために潜望鏡型のレンズを考案し、パイロット視点の迫力ある映像を作り上げた。
IMAXを好む理由についてノーランは、「その映像がもたらす没入感がほかと比べようもないほどすばらしいから」と語っている。

♧気に入ったスタッフや俳優を何度も起用

一貫したスタンスを貫くノーランだが、その作品を支えるスタッフも、決まった顔ぶれを起用することが多い。
中でも注目したいのが、音楽を担当するハンスジマー。
「パイレーツオブカリビアン」シリーズを始め、数々の大ヒット作を手掛ける作曲家だが、ノーランとは「バットマン ビギンズ」(05)以降、「プレステージ」(06)を除く全作品でコンビを組んでいる。
その重厚なメロディは、ノーランの作品世界に大きく貢献。
「ダンケルク」でも、その心臓を突き刺すようなリズムが緊迫感と臨場感を高める。

その一方、「ダークナイト ライジング」を最後に、「メメント」以来続いてきた撮影監督ウォーリーフィスターとのコンビを解消。
「インターステラー」と「ダンケルク」では、「007 スペクター」(15)のホイテヴァンホイテマを起用している。
この変更が映像にどのように作品に影響しているのか、過去の作品と比較しながら見るのも面白い。

また、俳優陣ではクリスチャンベール、トムハーディー、マイケルケイン、キリアンマーフィーといった地元・英国やアイルランドの名優を度々起用。
「ダンケルク」では、初顔合わせとなる顔ぶれも多いが、ケネスブラナー、マークライランスといったベテランから、映画初出演のフィオンホワイトヘッド、トムグリンカーニーまで、英国俳優陣の名演が存分に楽しめる。


ノーラン初の戦争映画となる「ダンケルク」は、長編映画10本目という節目に相応しく、キャリアの集大成的な作品、そしてまた新たな一歩を踏み出そうとする意志が感じられる作品に仕上がっている。
ぜひとも劇場に足を運び、その圧倒的な迫力を全身で体感してほしい!

さぁ皆も、独特の映像世界観、練り込まれた脚本、人間を探求する深い観察眼、いまや常に次回作が待たれる現代映画界の巨匠クリストファーノーランが放つ”深淵”に挑め!
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