ロッツォ國友

ダンケルクのロッツォ國友のレビュー・感想・評価

ダンケルク(2017年製作の映画)
4.4
字幕 アンゼたかし


乱れるダイヤに翻弄され40万人の帰宅困難者が無人改札で行列を作るお話!!!!!!
山手線か中央線あたりが定時帯に止まるとあんな感じになりますよね!!!


さすがにプロモーションに金使い過ぎなんじゃないかと思う位に宣伝されてる本作は、

「ダンケルクに取り残された40万人の退勤希望サラリーマン達が、捌き切れなかった残業に包囲され、JR南イングランドに振替輸送を打ち切られるも、同志を救おうと集結した沢山の個人タクシーに救われ奇跡の集団退社を実現させる」

というストーリーを広告の中で殆ど説明してしまっており、良くも悪くも観客の大多数は本筋を分かりきった状態で観に来ている。
そもそもこれは史実だし、包囲しているドイツがこの後どんな目に遭うかも分かりきっているわけなので、本作は歴史ではなく、この舞台の中で何を描けるかを魅せなくてはならない。

ましてナチスを相手取った戦争映画など星の数ほどあるので、コスプレサラリーマンがドンパチやっても称えられることはない。
この状況下でノーラン事業部長が考えたのは、「逃げて生き延びる」だけのお話。
メルギブ先輩がこの前沖縄戦でブラジャーを作りまくる衛生兵の映画を撮ったのも併せて考えると、近年の戦争映画はただ戦う以外のヒネリが必要だと考えられているのかも。


上述した通りプロモーションでストーリーの大筋を説明しているが、マジでそれ以上のストーリーは無い。このシンプルさは、余計なものをとことん削ぎ落として追われる恐怖と助けに行く焦りだけを表現しようとした結果なのだろう。



ハンス・ジマー先生作曲の、予告でも流れてる「カチカチとなる時計の歯車の音を基調にしたBGM」がほとんどのシーンで流れ続ける本作は、常に時間に追われる不安さに包まれており、包囲され時間が無いのに生還する手立てがどう考えても間に合わない状況に立たされる帰宅困難者達に容易に感情移入できる設計になっている。


また物語を
「撃たれながら救出を待つ帰宅困難者」と
「助けに行く有志の民間船」と
「援軍として出撃した空軍機」
の三つのパートに区切って順番に見せているが、これらはそれぞれ別の時間軸で話が進められており、場面が変わる度に夜になったり昼に戻ったりしている。

この展開の進め方は、少々混乱する部分もあるが、舞台がデカくてプロットがシンプルでおまけに劇中のほとんどが海上である為に悪くなりがちなテンポ感の改善に一役買っている。
時に船の上で、時に砂浜で、時に上空でそれぞれの戦いを乗り越えながら、本来時間のかかる「大量の兵士達の救出」という内容のお話を間延びさせずに描いており、これは良い工夫だと思いました。



また物語が終盤に行くにつれ、それはつまり実際に兵士達を救い出す段階へと進むにつれて、上記の三つのパート、三つの時間軸が少しずつ合わさり、繋がり、やがて同じ状況で同じ場に行き着くことで迎えるクライマックスには心を震わされた。
またさらに、散々観客を不安にさせた時計の音BGMが「止まる」シーンには鳥肌が立った。
おぉ、こういう使い方もあるのか。なるほどなるほど。


40万人の兵士のほとんどが銃を持ったまま敵軍に背を向けてただ並んでるだけだったり、気が動転しているのか判断が遅くて割とボンクラ揃いだったり、あとドイツの名機メッサーシュミットが容易くポロポロ落とされてたりするのは若干気になったが、中盤を過ぎる頃、それぞれのペースで刻まれていた時計が合わさってゆく頃には大して気にならなくなった。
序盤こそ大丈夫か?と思ったが、ちゃーんと面白かったし見せ場もあった。

ただ物語の大半は、水災系パニック映画のよく出来たネタを丁寧に並べているだけ(そうならざるを得ないんだけど)でもあるので、ここに面白さを見出せないとあんまり楽しめない気はする。
重厚で真剣に作られているが、そう何度も観て色んな角度から楽しむ系ではないかなと。元々色んな視点で観るように作ってあるからね。



とはいえ、最終的には非常に満足感を得られる映画だし、これを2時間に収めたのはひとえに制作者達の力量によるものだと思うし、スピッドファイアに乗るマックス・ロカタンスキーが最初から最後まで最高にクールだし、とても面白かったでごわす!

IMAXを最前列で観たからか、爆発シーンと軍用機が通り過ぎるシーンは毎回音響で心臓が震えたし、もちろん大画面でこそ映える作りになってるし、最近増えている「スマホで映画観れるから映画館いかない」とか寝言抜かしてるしょうもねぇ連中こそ映画館で、できれば前の方の席で観て自分の発言を永遠に悔い改めればいいと思う!!!


深い哲学とかそういうのじゃないけど、技巧が光る良い戦争映画でした。
グロシーンをあまり描かずにエグさを表現したのも見事。
ぜひぜひ映画館へ!
ドリンク70ガロンもお忘れなく!!
ロッツォ國友

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