ひんじゃく

ダンケルクのひんじゃくのレビュー・感想・評価

ダンケルク(2017年製作の映画)
4.3
‪「ダンケルク」の描き方は普通じゃない、従来の戦争モノとは違う‬。
‪ノーランのリアル志向は疑似体験という方向に進み、‬映像や音楽によって観客を戦場とリンクさせた。いわば、F・P・S(ファースト・パーソン・センジョウ)だ。

異なる3つの視点を、異なる時間軸で同時進行させ、結末で1つにまとめる。この一見複雑そうな構成が、‪批判的な声を挙げさせる1つの要因だと思う。
今までのノーラン作品を考えたら、一筋縄ではいかない撮り方をするのだろうと思っていたが、観終えてみればなるほど、この同時進行こそ監督の思惑を効果的に盛り込む唯一の方法だったのだ。

そしてもう1つ、この映画の尺も重要なポイントだ。ノーランにしては短い106分という尺。それはまた後ほど書こう。

まず、この映画の思惑とは何か?
先述の通り、観客をダンケルク沖での兵士(あるいは救出船の乗組員orパイロット)として戦場に送り込むことだろう。
それらを疑似体験させるために、あらゆる手法で緊張感を強いてくる。
例えば音楽、常に鳴っていたチクタク音や張り詰めたストリングス。
例えば映像、CGを使わない質感、本物の場所や戦艦。
そして、3つの視点で映される構成。

何が言いたいかというと、とにかく最後まで緊張感を持続させ続けることが、”想像を超える疑似体験”を実現させているのだ。
しかし、観る側も緊張感を延々と保ち続けることはできない。
だからこそ、疲れさせず、飽きさせず映画を終えるには、2時間以内という尺はベストな長さだったというわけだ。
3つの視点も、時間軸はズレていたが、ピンチの場面を重ねる瞬間も少なくなかった。
それによって時間は短縮、かつ内容は削らず、といった具合にうまく構成されている。

さらに余計なことを言うなら、セリフをほぼ排して、人の動きを淡々と映していることによって、キャラクターの心情を”あえて”交えない、一人称視点の戦場を覗くことができたのだ。


全ての要素が効果的に映画を色付けている。初めて「ダークナイト」「インターステラー」「メメント」を観た時と同じ。実話を基にした映画に於いても、ノーランマジックは顕在である。
万人受けを狙った作品では無いが、少なくとも僕にとっては、ノーラン監督を信頼できる材料がまた1つ増えた。
もちろん、これから監督が作る映画にも全幅の信頼を寄せているわけではない。
だが、今後も注目し続けるし、観たら何かを言いたくなるであろうことは間違いない。