kohei

ダゲレオタイプの女のkoheiのレビュー・感想・評価

ダゲレオタイプの女(2016年製作の映画)
3.7
《生は写し取られ、死は現ずる》

この映画を観るまで、映画は「芸術」だという事をすっかり忘れていた。メーセージ性の強いものばかり好んで、スカッとしたり、深く考え込んだり、笑ったり泣いたり。そういったある意味映画の外側ばかり見ていたけど、この映画を見て「映画は芸術なんだ!」って事を初めて考えさせられた。


黒沢清監督が、オールフランスロケ、全編フランス語で撮り上げた人間ドラマ、ホラー。ダゲレオタイプという世界最古の写真撮影方法に固執する中年写真家と、そのモデルを務める娘、そして彼女に恋心を抱く助手との悲劇的な愛の物語がつづられる。
ーーーーーーーー

生と死にまつわる最近の黒沢清作品の中で、というより『岸辺の旅』よりかは、芸術的な美しさが見やすく、演出的にドキッとする場面も多かった。要するに面白かった。車が走り出すシーンなんか、『サイコ』しか見てないヒッチコック初心者でも分かるような緊迫と恐怖のサウンドに興奮するし、風でなびくカーテンや暗くなる部屋もこの映画に関しては効果的に見える。要するに好み。

生と死の境界が危ぶまれ、死が現実として存在してしまう様がダゲレオタイプという最古の撮影方法によって撮られる。「写真を撮ると、魂が抜かれる」という迷信を思い出すが、この撮影法はまさに命懸けの所業であり、生を写し、死を招き寄せるものだった。撮影というのは元来そういうものだったという事を再認識させられ、撮る芸術品である映画が、その意味を何倍にも深める。

この映画は人間ドラマでありホラーであり、また紛れもない純愛ラブストーリーでもあった。愛は生死の境界をも超え、さらに増幅していく。捉え方の難しい映画だが、非現実と呼ばれるような虚構は全く存在せず、幻想が現実となる瞬間を垣間見た。

鑑賞中は考えを巡らさずにはいられない難解な映画だが、単純に芸術としての映画を楽しむ事ができる、ジャンルや国籍などの様々な境界を超えた娯楽映画だった。
kohei

kohei