ホッツるマッツる太郎

聖の青春のホッツるマッツる太郎のレビュー・感想・評価

聖の青春(2016年製作の映画)
3.5
東出昌大は羽生名人役をあのように演じるため、今までの作品では泥人形の如くスクリーンにたたずんでいたのでは、と思うほど素晴らしかった。似て見える、どころではなく感じた。
もちろん松山ケンイチも鬼気迫る存在感で、なおかつ若者らしい(って考え方に今ひっそり自分が悲しくなったけど)欲求の発露なども人間味あって…いや、バランスの崩れた実に濃厚な人物だ…演じ方の妙を味わえた。

そして、ふたりの対局は劇場全体が海の底で緊張している気分。息をつめて五感を研ぎ澄ます棋士を見つめながら、その感覚をなぞるような体験が出来た。映画館という環境の意味や、映像と演技のコンビネーションが沁みてくる。

村山聖が病識を持ち、せめて対局に費やす気力体力を補完する意識が多少なりともあれば、夭折の前に青春らしさを味わい、大事な場面で落手せず、数局は羽生名人と共に深みへ潜れただろうに。
幼い頃からの病身に慣れて油断したのか、まったく惜しい。一番悔しいのは本人だろうけど、親も師匠も先輩も仲間も悔しかったろう。

安田顕や柄本時生や染谷将太の「脇固め力」が、村山と羽生の独特な気質をくっきりさせて良かった。特に柄本が演じる荒崎学(モデルは先崎学)のスピンオフを見たい。それにしても、筒井道隆は全然わからなかった。エンドロールで、出てたの?!と驚いたけど、どの役か分かっても別人としか思えなかった。