まぬままおま

東からのまぬままおまのレビュー・感想・評価

東から(1993年製作の映画)
4.0
1989年は東欧革命によって東側諸国の民主化が進み始め、アメリカとソ連がマルタ会談で冷戦を終結した年だ。そんな大きな政治のうねりの中でも、変化のために東側諸国に生きる人々の生活は不安定な状態に置かれている。

本作は旧東ドイツやポーランド、ロシアを大きな政治ではなく、そこに生きる人々や風景に焦点を当ててドキュメントしたものである。

印象としては「暗すぎる」。街は夜や朝などで太陽の光がないし、建物も服装も彩色がほとんどない。人々の表情も暗いし、世界がくすんでいる。

本作は車からのトラッキングショットの長回しで路上で待っている人々や移動ショットの長回しによって駅で待っている人々を撮っている。彼らの表情は待っていたり、眠っていたり、退屈していたりで暗い。だがその暗さはカメラに眼差しを向けられることも一因のような気がする。カメラは彼らに一定の距離をとって「客観的・政治的に中立」に撮っている。インタビューをして彼らの心情を探ったり、意見を求めることもしないからだ。でもそれは「監視」的な眼差しでもあると思う。カメラは容赦なく彼らを記録してしまう。「暗い」という態度を。彼らの行動を。もしそれが政治的に不都合であれば処罰や収監の対象になってしまう。それだけ自由は保障されていない。だから監視に対する恐れとしての暗さ/肖像画と捉えることもできるし、カメラが彼らに関心を寄せて記録する以上、主観的で政治的に中立ではない。

駅構内を360度パンするショットは面白いし、子どもたちが路上で遊んでいる風景ー雪道を滑る様子もあったーもみてて楽しい。そして路上のショットにおいて、画面後方にあるお店で商品をアピールする店員たちが映っているのも暗さだけではない明るさを看取できてよかった。これこそドキュメント性であるし、何よりこの時代の東側諸国をドキュメントしたアケルマンの仕事には感嘆するしかない。