アケルマン監督は男性を困らせ狂わせるのが好きなようだ。『囚われの女』でストーカーしていたスタニスラス・メラールがマレーシアの密林の中で、孤立し囚われ、狂っていく。原作(未読)はコンラッド。長回しでジャングルの音や湿度を表し、説明を省いた文学的な作品だった。
邦題の意味がわからない。原題の「オルメイヤー氏の愚行」のとおりだった。
合理性ある行動がどこにもない。言葉だけが立派で浮いている。それとも当初から狂っていたのか。
現地妻との間の娘だけがオルメイヤー氏の生き甲斐だったが、彼が誰も愛さないように、娘も父親を愛さなかった。懐かない娘への異様な執着。白人として育てたいが、白人の世界を拒む娘。父娘の関係も、妻との関係も歪み、孤立した密林の中でオルメイヤー氏は狂っていく。
出ようとすればいつでもジャングルの水辺の家から出られるのに、船を待ち、船に乗らない。
蒸し暑い空気がまとわりつき、鬱蒼とした木々が彼を隠す。彼は金鉱目当てでやってきたが、現実が見えていない。彼しかいない幻想的な孤島は実在していたのかもわからない。
重く湿り気を帯びた熱気の中で彼はずっと熱病に侵されていたのかもしれない。
水辺を歩く音、密林の草をなぎ倒す音でオルメイヤーが生きているのがわかる。
娘ニナを監視していた男は実在していないように思える。オルメイヤーの分身なのではないか。
洪水で船長のベッドが浮いているシーンが好き。亡くなる時に誰にノートを渡せと言ったのか。「船長へ」と聞こえてぎょっとした。オルメイヤーはもともと船長で、狂っていない船長と狂ったオルメイヤーと人格が分かれているようにも思えた。
不思議な世界だった。
すべての存在があやふやになっていく。
まるで探していた金鉱のように。夢物語を語ることでしか存在しない。