Chico

DARK STAR/H・R・ギーガーの世界のChicoのレビュー・感想・評価

4.3
 映画エイリアンのデザインで一躍その名を世に知らしめたギーガー。それは彼の人生のターニングポイントであり、意義のある功績だけど、彼の作品世界のほんの一側面だ。

 自宅兼オフィスで彼の生活に密着し、家族や周りの人々の言葉を挟んでその作品世界(初期中期)を振り返っていく。ギーガーのスーパー奇怪な頭の中を覗き見ることのできる映画。

※劇中の言葉を借りながら、多少ネタバレしつつレビュー。

 ギーガーのアートヒストリーは一枚のポスターから始まったということが意外だった。
 人体パーツと機械を融合して描かれた「バイオメカノイド」と呼ばれるジャンル(?)をエアブラシで描く。
 そのグロテスクなイメージは生と死のシンボルを散りばめながら、エロスとタナトスを表現している。
 ギーガーが描くのは人が避けたいと思うような恐怖であり、劇中の言葉を借りるならそれは”黒色化”した闇だ。しかしそれは彼にとっては癒しであり、光でもある。
 シュルレアリスムにも見える彼の作品が一体どんな評価をうけているのか気になったが、どうやらアートシーンと大衆文化の間で揺らいでいた時期もあり、ようやく時を経てアートのコンテクストの中で語られるようになったとのこと。
 ただ彼自身は世間の評価を気にかけている様子はないし、創作は、自分の世界を描き続けたい、その時間に浸っていたい、というまさに本能的衝動によるものに見えた。
 劇中、彼のパーソナリティが垣間見えれたのは貴重だった。作品が与える恐怖のイメージとはかけ離れた、どこかこどもみたいな無邪気で柔らかい雰囲気のギーガーにいい意味で拍子抜けしてしまった。
 その二面性はどんな言葉よりも彼の住まい(撮影当時は随分マシらしい)が如実にそれを語っていると思う。
 作品冒頭の彼が父からもらったという、人の頭蓋骨を紹介するシーンからそれが伝わるように、彼の家はまるで恐怖の館かお化け屋敷のごとく、家、庭中そこかしこに独創的なオブジェが置かれていて、収拾のつかない大量の本は崩れるように本棚の外に溢れ、隅っこに蜘蛛の巣がはってあった。
 幽霊列車を庭に作り、それに乗って遊んだり、浴槽にヤギの頭を沈めていたり(これは昔の話)、とまるでカオス。そして黒の衣服に身を包みお気に入りのチェアでスケッチをする。愛猫”ムギ三世”を傍らに。

劇中ドアのガラスに書かれたスタッフ間の注意事項にクスッとなった。
・道具は元に戻すこと
・食器は放っておかない
・ギーガーを反面教師とせよ。

少しおこがましいとは思いつつも、
 自分の中でこれは真に芸術(芸術家)だ、と思うものはだいたいその作品に触れた後に創作意欲が湧くし、何か焚きつけられたような衝動と胸騒ぎがする。

始終寡黙でどこか遠くを見ているような虚ろな瞳。人生の幕引きを悟っていたのかのようなラストのセリフに感じ入るものがあった。
Chico

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