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アナイアレイション -全滅領域-のemeronのネタバレレビュー・内容・結末

4.5

このレビューはネタバレを含みます

作品の印象は「風の谷のナウシカ」(漫画版)と「遊星からの物体X」の融合という印象。
まずはじめにレナが教壇で説明していた30代の女性からとられた、がん細胞だというのは勤めているジョンズ・ホプキンズ大学からみてもHeLa細胞のことと思われる。何よりレナは自宅での回想でしっかりHela細胞の本を自宅で読んでる。
Hela細胞とは5人の子どもがいたヘンリエッタ・ラックス(Henrietta Lacks)さんの頭文字から命名された。進行性乳がんのため、ジョンズ・ホプキンス大学病院で1951年に死亡。享年31歳。死亡する直前に採取された高い増殖性のある細胞は、本人や遺族の知らないまま数十年にわたり人間のものとしては最も多く研究に使われた細胞株となった。詳しくはNHK番組フランケンシュタインの誘惑CASE1「死ねない細胞 世界を救った黒人女性の悲劇」を見てほしい。

映画の組み立て方として”先遣隊の音信不通”という流れはとりわけSFと相性がいいと思われる。「エイリアン2」、「2010年宇宙の旅」など続編ではそれは顕著ではあるが単体の作品でも「遊星からの物体X」、「イベントホライズン」、「アド・アストラ」など、つまり不気味な雰囲気をコンパクトに詰め込める話の定形と言えるだろう。この監督が脚本の「サンシャイン2057」もそうだ。この作品にも出ていた東洋人俳優による尋問の能面のような顔の圧力がすごかった。帰宅した夫が質問に全く答えられないのは最終的に明らかになるが別人になり変わっているからというのも「ノイズ」などに見られる。本当にわかっていなかったということだ。

被爆するする脅威と同時に廃墟が森に飲み込まれていく腐海のようなイメージは現実世界のチェルノブイリは切っても切れない関係だろう。プールでの遺体には「遊星からの物体X」の造形のアップデートを感じた。ビデオでの切腹はされる本人も同意しているようである、ひょっとすると本人からケインに頼んだのかもしれない。うごめく内蔵みてケイン笑っちゃってるし
人形の木はジェイソン・デカイレス・テイラーの海底美術館思わせる、海底に石像を放置しておくとそこに海藻やサンゴが成長していくアートだ。石像だから見ていられるがそれが元々は人間だったかもと思うと急に怖くなる。

全体を通じて粘菌のイメージが強い。変形体という餌を求めて個別に動き回る時期と子実体という餌がなくなったときなどにそれぞれが融合しだして一箇所に集まり胞子のように空中に散布する時期があるいわば動物と植物の融合のような存在。プールの遺体もそうだし博士の最後の口から粒子を吐き出すのはこれを表しているだろう。ここで言うアナイアレーション(全滅)とは個体としての壁がなくなり全てが1つになるという人類補完計画のようなこと思われる。

取調室でレナは模倣の話をしているときにの腕に8のようなイレズミがあるのを見ている、直後のシーンでにボートに乗っている時点ではそれがないのを強調している、だがボート上のアニャの腕にはイレズミがすでにある、しかもプールで朽ちていた遺体の腕にもイレズミはよく見るとある。
村でレナ自身の血を腕から採取するときにうっすら8のイレズミが浮かんできている。村を出たあたりではもうしっかり8の字が現れている。
これは8ではなくインフィニティ(無限大)あるいはウロボロスの象徴として入れ込んだのだろう。ウロボロスは「自分の尾を飲み込む蛇」で「自死と再生」「不老不死」を表している。
「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」の言葉のように人間の体も分子レベルでは1年前の体とは全く別の物質で構成されている。
アポトーシス(意図的な自殺)と再生のスクラップアンドビルドにより老いとは逆の過程をとることによって動的平衡を保っている状態。壊すことで何か新しいものを創り出せると言っているのだ。
結成チーム全員に負い目つまり自滅の傾向がある
レナ:不倫。妻帯者の黒人男性との不倫はケインにバレているかもという発言からケインの任務前からの関係とわかる
アニャ:中毒患者、劇中では明示されていないが2つの可能性を考えて自分が疑われる前に相手を攻撃する傾向がある
キャシー:白血病の娘の死
ラデック:自殺願望。腕に傷がありそのことで生きる実感を得ているという
ヴェントレス博士:末期がん患者で灯台にたどり着けば状況が変わると確信している

「もののけ姫」のシシ神のような角に桜が咲いているような鹿も急に分裂して少し違うものになってシンクロしていたものがちょっとずつずつずれていくように見える。(一人だけ目撃することになって他のメンバーには黙っているのもスタンド・バイ・ミーの鹿のシーンを思わせる)。遺伝子の水平伝播といって生命の系統樹を超えて遺伝情報が伝播することがある。キメラのように別々の種をつなぎ合わせたような状況がこのエリアでは日常的に起こるようだ。同じ株に別の花を咲かせる植物、サメの歯をもつワニ、捕食した動物の声帯をコピーできるクマ、立ちながら木になる人間など。
進化論では体部分の模倣と少しづつの変異を実世界で試す自然淘汰で成り立っている。
最後の異型とのシンクロダンスも細胞分裂を表しているのだろう。レナが攻撃してきたから模倣として攻撃仕返した。倒れたところまで模倣しようとしている。結果はどうあれとにかく変形、変容させていくことが目的のようだ

冒頭の尋問でアニャとキャシーは死んだと答える一方、ヴェントレス博士とラデックのことには知らないと答える、確かに胞子をまき散らしたり木と一体化したりしてそれまでとは明らかに違う生命体となって生きているとも考えられる、最後の質問「君はレナなのか?」にもはレナ本人も自分がどっちなのかよくわからない。確実に元のレナとは違う、つまりわからないのは正直なところだろう。

監督が映画会社から「わかりやすくしろ」との対立から配給権がNetflixに売却されたとのこと。
原作小説は三部作だが監督は自己完結した一作品として作ったそうです。
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