森崎

ゴッホ~最期の手紙~の森崎のレビュー・感想・評価

ゴッホ~最期の手紙~(2017年製作の映画)
4.0
真横に流れるほど強い風に舞った雪で一面真っ白になった前の日の景色。雪の白のなかで沢山の色を入れたいな、よしゴッホを観に行こうと思っていたら思いの外早く溶けていて凍結した道路にただただあたふたしながら向かった映画館。

物語はゴッホが亡くなってしばらくしてからの話。
投函されないままになっていたゴッホからその弟テオ宛の手紙が発見され、郵便配達員でありゴッホの友人であった父に頼まれたアルマンは手紙を届けに行く。手紙を届けるための道のりはいつしかゴッホの最期を辿る道のりと重なり、アルマンはゴッホの人柄と最期の真相に迫りゆく。

要はセル画を使ったアニメーションと一緒と言われればそうなのかもしれないし、少しチカチカすると言われればそうなのかもしれない、けれどまず全編通してゴッホのタッチに似せて描かれた油絵が使われた画の力に吸い込まれる。平面だけど、どこか奥行きがあって厚みがあって、流れるようなタッチが映像として動いているとこちらを飲み込んでしまいそうなうねりがあって。「夜のカフェテラス」や「タンギー爺さん」といった有名な作品も劇中に出てくるけれど、絵画作品としてではなく彼が目にしたであろう一場面として存在するのがいい。驚異的なスピードで作品を制作していたゴッホが何を見ていたか、それは特別なものではなく目の前にある日常から見えてくる何かを浮かび上がらせたのだろうなと思えるから。だけど、所々はっとする一枚画の美しさもあって驚く。私には「医師ガシェの肖像」が特にそうだった。
画の力も凄かったけれど、ドラマとしてもしっかり見応えがあった。おそらくだけれど、油絵で描かれた人物の眼球だけはホンモノなんじゃないかな…と思える目元の演技と繊細さが説得力をもたらしているのでは。


ぼくがいなくて困る人なんて
いない、とも毎朝思う
ぼくはゴッホじゃやなんだ
やっぱりゴッホじゃやなんだ

という歌詞がありまして。その名もドレスコーズの「ゴッホ」という曲なんですけども。
生前は評価されなかったものの画商だった弟の尽力もあり死後やっと評価されるに至ったゴッホ、表現者である以上名声を得るならやはり生きているうちでありたい、っていうことかなあと今までぼんやり思っていたけれど、そもそも自分はゴッホに対して画家として彼は幸か不幸かどちらでもないのかと思っているだけだったと気づかされた。
この映画はゴッホを一人の人間としてその生き方を、人生を描いたもの。富や名声がなかったからどうかとかではなく、才能を評価してくれる人がいて気のおけない友がいて死んだら泣いてくれる人がいた。という自然なこと。ヤバいエピソードは数あれど。小野ほりでいの「ゴッホとゴーギャンのドキドキライフ」で結構笑ったりジーンときたりで変な情報も入ってるかもだけど。


ところで、個人的に結局どんな人もみんな同じ人間なんだよなあ、と思うことが最近多くなっている。大きなことを成すことを求めるよりまず生きてさえいりゃいい、とも思ったりもする。と思いつつも上に書いたドレスコーズの志磨さんがいちバンドマンから始まり今では芝居の音楽監督もしているのを凄いなあと思っていたりもする。そんなとっ散らかった感想を持つ自分自身が博愛主義にでもなってきているのか偉人だって近しい者だと思って安心でもしたいのかよくわからなくなってきているけれど、どう生きたってその人の勝手だしゴッホじゃやなんだとか思われたとしても日本人にも人気だし後々こんな映画を企画させるなんて凄いよな、ゴッホ。
森崎

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