青眼の白龍

ゴッホ~最期の手紙~の青眼の白龍のレビュー・感想・評価

ゴッホ~最期の手紙~(2017年製作の映画)
4.2
100人の画家によって製作されたアニメーション映画。ゴッホの画風をそのまま再現した背景やキャラクターが滑らかに動き、まるで絵画の世界に飛び込んだような感動を与えてくれる。

物語はゴッホの自殺から一年後、彼が弟に宛てて遺した一通の手紙から始まる。主人公は郵便局長の父から手紙を届けるよう頼まれ、やがてゴッホの死没した地オーヴェル・シュル・オアーズへと旅立つが……という話。ルーラン家とゴッホの関係など、大まかな背景を理解していないと最初は少し戸惑うかもしれない。

本作は伝記映画というより、むしろゴッホの死因をめぐる社会派ミステリーだ。物語はゴッホの周辺人物の聴取と検証が軸になっているのだが、誰もが何かしら秘密を抱えており一筋縄ではいかない。ゴッホの自殺によって陰鬱さが漂う田舎町オーヴェルに部外者の主人公が現れ、住民たちの影を暴いていく様はツイン・ピークスのようである。誰の証言が信用できるのか、何故ゴッホは死を選んだのか、最後の手紙には何が書かれているのか? そういった謎を解き明かしつつ、主人公はゴッホの生前像に迫っていく。

もちろん、ミステリ的な楽しみ方だけが魅力ではない。南仏の穏やかな景色や、月夜に彩られた夜のカフェテラスなど、ゴッホの作品に見られるモチーフが頻繁に登場するので純粋な絵画的鑑賞を楽しむのもよいだろう。『タンギー爺さん』や『悲しむ老人』をはじめ、『郵便配達人ジョゼフ・ルーランの肖像』や『ラ・ムスメ』といった有名肖像画の人物たちが生命を吹き込まれ、生きた姿で登場するのも嬉しい。ゴッホに興味がある方もない方も、他では決して味わえない絵画の世界を存分に体験してほしい。