まさか彼がメジャー路線でいくとは
デビュー作の「パイ」(食べるやつじゃないよ)から欠かさず作品を拝見しております。まさかこんなメジャー作品を撮る日が来るとは…とはいえ、根底に流れる薄暗いものは健在のようで。
しかし、この映画を観ていたたまれない感覚に苛まれたのは自分だけでしょうか。なんというか、自分の中に巣くっているコンプレックスを非常に刺激された映画でした。生真面目にバレエ一筋に生きてきた主人公が、白鳥の湖の主役の座を勝ち取る…そこまではナイスなサクセスストーリーの第一歩ですが、問題は彼女が純潔かつ気高い白鳥のみならず、男を誘惑して奪取する黒鳥も演じなければならず、恐らくほぼ処女状態で過ごしてきた彼女には、男を誘惑するなんて皆目見当もつかない。健康な人間なら恐らく誰しも持っているセクシュアリティをずっと封印してきた人間に、いざ出動!と言ったところで、途方にくれるのは当たり前です。
この映画の怖さは、仮面をかぶり続けると、いざ素顔を見せようと思っても、その仮面はなかなか外れないというところにあるかと思います。長きにわたり自分の素顔を隠し続けると、仮面こそが自分の顔になってしまう。でもその下に隠れている本当の自分は、陽の目を見たいと暴れだす。そして徐々に精神のバランスを崩し始める。
日陰者として扱われがちなセクシュアリティは、生きる者のアイデンティティと表裏一体です。それを上手く解放することで、他者と交わり自分を表現していく。それが出来ないまま生きていくと、人はいつか破滅する。
そんなことまで考えさせられた映画でした。
2019/2/15 12:13