MasaichiYaguchi

ふたりの桃源郷のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

ふたりの桃源郷(2016年製作の映画)
4.2
この作品は、ローカル局である山口放送が25年に亘り山で暮らす一組の夫婦とその家族を取材、放送し続けたシリーズを映画化したもの。
このドキュメンタリーを観ていると、戦後の日本の家族が歩んできた歴史を垣間見るのと同時に、老後の在り方を登場する田中寅夫・フサコ夫妻に教えてもらっているような気がする。
本作の舞台となっているのは、山口県岩国市美和町にある山。
田中夫妻が戦後、焼け出された都会を離れ、電気も水道も通わない山を開墾して田畑を作り、生活の場として子供たちを産み育てた処でもある。
オープニングとラストにこの夫妻が住んだ処が空撮で登場するが、タイトルの「桃源郷」に相応しい、俗世間から離れた別天地。
夫婦の生活には余計なものは無く、水は山の湧水から引き、電気は発電機で、燃料も薪で賄っている。
そして自ら作ったものを食べて暮らすという自給自足の地に根を下ろした生活。
夫婦は子供たちの学業の為に一時的に都会生活をすることはあっても、子育てが終われば、生活の基盤である山に戻る。
都会生活の長い私は、自然環境が厳しい冬もあり、山でのきつい肉体労働を伴う畑仕事や不便な暮らしに直ぐ根を上げてしまうと思う。
山での暮らしが長い田中夫妻でも寄る年波には勝てず、やがて様々な障害が出てくる。
本作では、そのような夫婦を支える家族の様子が感動的に映し出されていく。
不便な田舎を捨て、都会へ出ていく人が多い世の中だが、ここで描かれているのは、夫妻が終の棲家とし、その魂が宿る処として大事にしよう、それを受け継いでいこうとする家族の姿に心揺さぶられずにはいられない。
このドキュメンタリーは家族について、夫婦とは親子とは、そして人生について、生きるとは幸福な死とは何か、ということを我々に問い掛けていると思う。