ERI

サマリアのERIのレビュー・感想・評価

サマリア(2004年製作の映画)
3.8
キム・ギドク監督作品「サマリア 」。テーマは"援助交際"ですが、言い切ってしまえない映画でした。丁寧に丁寧に、その裏にある想いを織り成した映像。

大筋は、高校に通うヨジンとチェヨンはお互いを抱きしめあうほど仲良し。二人でヨーロッパ旅行に出かけるためにチェヨンは援助交際をしている。その見張りと、お金の管理をヨジンがしてる。ヨジンは、そのことを少し悪いことだと思っていて、やめたいけど、チェヨンに「あなたなしでは、何もできない。」なんて言われると、今の状況を許してしまう。ある時、見張りがうまくいかなくて、チェヨンが援交してるホテルに警察がやってくるの。そして、チェヨンはホテルの窓から飛び降りてしまう。

殺してしまったのは自分だと、ヨジンは自分を責めて苦しむ。そして思いついた自分に出来ることは、稼いだお金を出会った男たちに返してゆくこと。自分はチェヨンだと名乗りながら。

そして、そのことをヨジンの父親が偶然にも知ってしまう。父親は警察をしていて、妻をなくしている。ヨジンと二人で暮らしていて、溺愛してる。そのとき父親はヨジンに問いただすのではなくて、その男たちに制裁を与えていく。ヨジンはヨジン、父は父の視線で、愛に苦しむお話。

映画は三部構成に作られてます。その作り方が、すごい効果的に映画をよくしている。

最初はチェヨンの視点で物語りは進む。チェヨンは自分のことを、"バスミルダ"と呼んで!って言っていて、そのことがすごくキーとなっている。"バスミルダ"っていうのは、インドの説話に出てくるらしい娼婦のこと。その娼婦に抱かれた男たちが、みんな仏教徒になっていくっていう逸話があって、そのことをモチーフにしたらしい。だからチェヨンは悪いことやとは思ってない。男たちを抱くことを愛しいとさえ思ってる。

一方ヨジンは必要以上に、チェヨンの体を洗う。大切にしたくてしたくてたまらないから。少女を買う大人たちを許せないって思ってたのに、チェヨンが死んでしまって、自分に深く傷を負って、つぐないのため、罪滅ぼしのために、自分がチェヨンと同じことをする。

弱い男たちを、優しく抱いてあげる。それが第二部"サマリア"。サマリアはキリスト的な意味がこめられている。

そして第三部が"ソナタ"。これは父からの目線で、娘が援助交際をするという事実を受け止める。父親は父親で、愛するあまり正しい行動を取れなくて、そのことが余計愛を露骨にしていて、痛かった。男親の不器用さが痛いぐらいに伝わってきて、悔しくてどうしようもない。

映像がとにかく美しくて、だからこそ痛みが露骨に表れている。なんだか、娘の思いと、父の思いと、友の思い、それぞれがすれ違っていて、痛い。キャストがすごいよくてヨジンとチェヨンの目が、すごく印象的。シーン・シーン忘れられない写真みたいな描写が多くて、少女が過ごす独特な時間が、心地よいような危なっかしいような不思議な気持ちになります。

そしてエンディングがすごいよかった。夢を見てるのか、父の気持ちなのか、二つの答えがあるような気がする、そんな終わり方がよかったです。
ERI

ERI