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愚行録のodyssのレビュー・感想・評価

愚行録(2017年製作の映画)
2.0
【説得力に乏しい凡作】

1年前に起こった未解決の一家惨殺事件を取り上げて関係者に取材する週刊誌記者(妻夫木聡)の視点から、事件関係者の学生時代の行動およびその後の消息、そして人間関係が明らかにされていく、というのが大まかなストーリー。

そこで問題になるのは日本の格差である(作中では「格差ではなく階級だ」と言われている)。名門私学ブンオウ大学(慶応を指している)での内部生と外部生の差であるとか(一家惨殺事件で殺された主婦はここの出身)、またやはり名門私学であるイナ大学(早稲田を指している)の男子学生が希望通りの就職先に入るために同級生の女子学生を道具同然に扱っていた過去であるとか(一家惨殺事件で殺された会社員はここの出身)・・・・要は名門私学に学んだ人間の実態が暴かれていく、という作品。

そういう筋書きはいかにも通俗的なストーリーであり、慶応や早稲田の表層的なイメージをなぞっただけではないかという気がする。筋書きも細かいところが練れておらず、本気で日本の格差や階級を追及しているようには思えない。

例えばこの映画ではヒロイン(満島ひかり)が育児放棄をしているのだが、恵まれない家庭に育った女性という設定ではあるものの、どういうわけかブンオウ大学(慶応)を出ていることになっている。恵まれない家庭に育った彼女がどうして名門私学に入れたのか、映画ではほとんど説明がなされていない。唯一、「勉強はがんばりました」と当の女性が言っているだけで、これでは説得力も糞もないだろう。恵まれない家庭に育った女性は育児能力が低いだけでなく、学校での勉学意欲も低いというのが普通だからである。つまり、設定がいい加減であることがすぐ分かっちゃう杜撰な映画なのだ。

週刊誌記者の妻夫木聡の学歴だって、この映画ははっきり描いていない。彼の勤務する出版社の週刊誌は二流らしいが、山手線の宙吊り広告に出ているのだから、いかに二流出版社だって、早慶ではなくともマーチくらいは出てなきゃ勤務できないだろう。その辺もいい加減なのだ。

原作は未読なので、この杜撰さが原作由来なのか映画制作陣の責任なのかは不明だが、いずれにせよもっと緻密な脚本を用意して欲しい。
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