くりふ

ニールジャーのくりふのレビュー・感想・評価

ニールジャー(2016年製作の映画)
4.0
【22歳女子vsパレスチナの狂犬】

IFFJ2016にて。今年は3本みられ、本作が一番よかった。1986年、パキスタンのカラチで実際に起きたハイジャック事件を描く、求心力溢れるスリラー。

なのに歌と踊りもアリなところは、さすがボリウッド。主人公は当時まだ22歳のCA。ニールジャー・バノートさんという実在の人物を、ソーナム・カプールさんが溌剌と、しかし弱みもけなげに出しつつ演じています。物語に演技力が追いついていない感もありますが、この役柄だとよい方に転んでいますね。

ニールジャーにとってはチーフパーサーに昇格しての初仕事で、いきなり武装グループに乗り込まれてしまう。で、ナゼ一介のCAが、ここまで事件の矢面に立たされるのかわからなかったのですが…見てびっくり!実際に、犯人たちと対峙するのは客室乗務員「だけ」なんですね。

あのルールって、現代も適用されているのだろうか。まあ、緊急対処としてはわかる気もします。アレで犯人たちは身動きできなくなったわけだから。

初動段階で、彼らがマヌケだったのが不幸中の幸いでしたね。いやしかし、操縦席どこだよ!っていくらなんでも…(苦笑)。

映画としてイチの見所は、密室状態となった機内での、ニールジャーと犯人たちの攻防戦。もちろん心での戦いです。たとえば、人質はアメリカ人から殺そう、という声を耳に挟むと、まずアメリカ人を守るにはどうするか?と速攻ある手を打つ。

それが功を奏しても、じゃ、○○を殺そう、と標的が変わるだけだから…と、次々起こる難題をどう乗り越えるのか?オーソドックスな展開・演出であっても、この心理勝ち抜き戦にはかなりハラハラさせられました。実際の事件でも、相当数の死者が出ているし。

定番ですが、犯人グループにキレキャラがいて、やたらと人質殺したがるし、ニールジャーを目の敵にしてセクハラまがいのこともする、といったワサビも効いています。

また、ニールジャーはあるトラウマを抱えており、ハイジャックに立ち向かうことがトラウマ克服にもつながる、というサブストーリーも添えてありますね。物語の幅は広がるのですが、ちょっと安直かな、とは思いました。

個人的には、母親役シャバーナー・アーズミーさんがすごくて、ドラマ面を重量級にしていたと思う。

で、映画はこのニールジャーさんを、プロパガンダか!と思うほど、ラストで持ち上げまくります。ちょっと鼻白むのですが、ちょっと集めた情報によると、インドの現況も関係あるらしい。

ヒンディー語映画では以前と違い、女性が中心となる映画がかなり盛り上がっているそうなんですね。

また2012年に、日本にいても情報入りましたが、デリー集団強姦事件が起きました。女子大生を鉄棒でレイプし内臓引き裂き殺しちゃった酷い事件。これを受け、インドの女性たちが反旗を翻したことも影響あるようです。

そんな背景をみると、30年前の事件を持ち出してまで本作がつくられ、このようなエンディングを描くことは必然とも言えそうです。

エンドロールでニールジャーさんご本人の写真が登場しますが、細身のモデル風美人で…実際にモデルをやっていたそうですが…ソーナムさんというキャスティングはドンピシャだと思いました。

これ、映画祭の上映だけではもったいないですね。単館レイトショーでもいいから、もっと広くみられるべき映画だと思います。

<2016.10.21記>
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