YokoGoto

あなた、その川を渡らないでのYokoGotoのレビュー・感想・評価

3.3
ー生きるために必要なものが宗教なら、死ぬために必要なのは、たった一人の愛する人ー

2014年、本国の韓国で空前の大ヒットとなったドキュメンタリー映画。

劇場での観客動員数が450万人。韓国の人口が約5,000万人だから、10人に一人が劇場で本作を観たという計算なのだそうだ。これが、本映画の最大のキャッチコピーとなっている。

450万人の観客動員数といったら、邦画でいうと、どの映画のレベルなんだろう?と思い、ちょっと調べたら、あの“シン・ゴジラ”が550万人らしいので、日本で言えば“シン・ゴジラ”と同じような熱狂ということになるだろう。

韓国の人口比で言えば、その熱狂は、もっとすごかったに違いないと思った。

舞台は、手付かずで残されている韓国の片田舎。
そこで暮らす89歳のおばあちゃんと98歳のおじいさんの、2人の日常を映した物語。

本作の監督が、偶然テレビでこの夫婦を知り興味をもち、ドキュメンタリー映画を作ろうと思ったそうだ。予算0だったので、泊まり込みでカメラを回したらしい。

なんのへんてつもない、普通の田舎の老夫婦の物語が、これほどまでの物語性をもって語りかけるというのは、ある意味、社会の行き詰まり感を示しているのかもしれない。それほど、普通の普通の物語なのだ。

86分という短い尺のなかで、ひたすら仲の良い老夫婦の日常が展開される。
無邪気にはしゃぐ2人の映像を観て、果たして、このシーンは監督の演出が入っていないのだろうか?と不思議になってしまう。それが、何度も何度も繰り返される。

ノンフィクションでありながらも、どうしてもフィクションのタッチを感じてしまう画作りなのだ。

これも含めて、監督の意図した作り方なのか、それとも本当に偶然とらえたドキュメンタリー映像なのか?これは、現場の作り手しか知り得ない所なのだろうな。

私は、なんとなくフィクションに近い映像のように見え、でもそれも含めて映画として評価しても良い作品なんだろうなと理解した。

人間が生きていくためには、時折、人間を癒やし楽にする宗教が必要な場合がある。
目に見えない、神仏に祈ることで、乱された心が整うからだ。しかし、それはあくまでも『生きるため』。よりよく死ぬためには、宗教よりも、たった一人の愛する人の存在の方が重要なんだろう。

そんな事を感じさせてくれる、素朴なドキュメンタリー映画。
YokoGoto

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