櫻イミト

未来世紀カミカゼの櫻イミトのレビュー・感想・評価

未来世紀カミカゼ(1982年製作の映画)
3.5
三島由紀夫主演の「からっ風野郎」(1960)と同じように、巨匠ファスビンダーありきの一本。低予算な作りだが、ファスビンダーのヒョウ柄スーツをはじめ映画全体を貫くキッチュでガレージな世界観が80年代サブカルへの郷愁を誘う捨てがたい一本。ファスビンダー監督が急死した1か月後に公開された。

「ブレードランナー」(1982)と同時期に公開されたドイツ製の近未来SFで、原題の「kamikaze 1989」が示す通り”公開の7年後”という非常に近い未来の話。ドイツは世界一豊かな国になっていたが、実は絶対権力者がメディアを使って支配する空虚な消費社会だった。ある殺人事件を調査していたアル中の警官ヤンソン(ファスビンダー)はその秘密を知り、相棒のアントン(ギュンター・カウフマン)と共に権力中枢に迫っていくのだが。。。

当時すでに薬物中毒で肥満だったファスビンダーは見るからに体調不良そうだが役柄には合っていた。また、ファスビンダー監督映画の常連俳優たちが共演していることもあってか楽しそうに演じているのが伝わってくる。原題に付けられた"kamikaze(神風)”は、主人公の警官ヤンソンの未来なき闘いを示しているとのこと。映画のラストカット、ファスビンダーは壁に貼られたアームストロング宇宙飛行士に腰を叩きつけて振り向き、絶望の表情をキメる。そこにエンディングロールが流れていくのだが、長回しに耐えられなくなったのかカメラ目線で笑みをこぼす。結局これがフィルムに残るファスビンダー監督の最後の姿になったことを思うと感慨深い。

※ファスビンダー監督の生前最後の映像は「ケレル」(1982)のメイキングビデオとなる。
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