MasaichiYaguchi

花芯のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

花芯(2016年製作の映画)
3.7
「男は頭で物を考え、女は子宮で物を考える」と言うけれど、本作を観て改めて男と女は本質的に違うのだということを感じる。
瀬戸内寂聴さんが、瀬戸内晴美時代の1957年に発表して物議を醸した恋愛小説を初めて映画化した本作は、現代にも通用する性愛を真正面から取り上げ、官能的に美しく描いている。
戦前の家長制度が戦後崩れ、個々人の意思を尊重するようになった社会を象徴する人物として、この作品のヒロイン・園子が登場する。
一見貞淑そうで頼り無げな園子だが、身体の内に激しい情念、愛欲という業を抱えている。
この危うげで、男が惹かれずにはいられない園子を村川絵梨さんが、時に切なく、時に繊細に、そして激しく、体当たりで演じている。
今年に入ってタレントをはじめとした著名人の不倫スキャンダルが立て続けにスクープされ、未だに世間を騒がしているが、自分を大切に愛してくれる夫や腹を痛めた子をなおざりにして、自らの本能、愛欲のままに行動している園子は、社会が保守化しているこのご時世では、激しいバッシングの対象になると思う。
社会のしきたり、良妻賢母や貞操観念という枷から解き放たれ、自由気儘に生きるのは気楽なようでいて、誰にも依存しないので、確固たる信念や自我が無ければ貫けない。
だから、社会通念や習わしに縛られながら日々を送っている、我々のような小市民の方が却って気楽だと思う。
全てを振り切り、本能のまま、子宮が命ずるまま性や生を全うしようとする園子の女性として、人としての強さや潔さに、何とも言えない清々しさを感じてしまう。