ごんす

マンチェスター・バイ・ザ・シーのごんすのレビュー・感想・評価

5.0
映画好きあるあるのオールタイムベスト決めるとしたら…で決められず、ベスト10には入る!と言っているものが10本以上になっている問題。
自分にとってこの映画もベスト候補に入れておきたい。

この映画を観てから過去のトラウマ的なものを扱った作品のハードルが上がった。
心に傷を負う、それはどんな出来事だったのか、どのくらい傷ついたのか、その結果今どんな人になっているのか、その人の周りの人は今どう接しているか…

だいたい作品内でトラウマを扱うとこんな感じで見せられると思うのだが(ひどい作品は殺人事件を起こした犯人の動機なんかを全てトラウマに集約させてぼんやり終わらせたりもする)

この映画は主人公リーが心に負った傷とそれによって彼が現在どんな人になっているかが、ケイシー・アフレックによって見事に表現されていて本当に実生活でこういう経験しているのかなと思うくらい。

しかもちゃんと過去のリーのウザい所はマジでウザく思わせてくれる。
体調悪い妻がやっと寝かしつけたのよと言っているベビーをヘラヘラ抱っこしようとする所はビンタしてやりたい。

過去と現在で全然違う人になってしまっていること、そうなるのも不思議ではないくらいの出来事。
すごい脚本なのだと思うけど、やはり演じ切ったケイシー・アフレックは見事。
リーは当初マット・デイモンが演じる予定が彼に譲る形になったそうだが、ここまで応えるのも凄い!
マット・デイモンと親友のベン・アフレックの弟にあたるケイシー・アフレック…おまえらの関係性最高すぎな。

トラウマという化け物が心に巣食ってしまった男の暗く重い話になってもおかしくない所を甥っ子のチャラいキャラが中和。
「僕はここから離れたくない、二人の彼女だっている!」的なことを言っていて笑ってしまった。
暗すぎず明るすぎず進んでいくこの映画の雰囲気がより、実世界の様な気がして思い出すと苦しくもある。


リーの過去ほどの出来事でなくても
生きていると忘れたくても忘れられないようなことはきっと誰にでもあって
負ってしまった傷は癒えないし、そう簡単に克服なんてできない。
形を変えながらその傷を抱えて皆生きているのだなと思うと人にも自分にも優しくありたくなる。

元奥さんのランディを演じたミシェル・ウィリアムズには短い登場ながらぐちゃぐちゃに泣かされてしまった。
この年は猛者揃いでアカデミー賞助演女優賞のノミネートに留まったけれど、個人的に生涯忘れられない演技だった。

ランディをもっと登場させた方がドラマティックにはなるだろうけど、そんなことさせなくてもより彼女に感情移入させられるのはポスターからも連想させられる終盤のリーとの会話シーンを完璧に演じていたからだと思う。
ここ何年かで一番心に残っている会話のシーンかもしれない。
ハッとさせられるぐらいシンプルな言葉が突き刺さる。

心に寄り添うように出入り自由な状態でそっと終わっていくこの映画はいつまでも心に残りそう。
ごんす

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