ささみんと

マンチェスター・バイ・ザ・シーのささみんとのレビュー・感想・評価

4.5
生気を失っているというかやる気が無いというか、ダウナーな風体で女性からの好意を極度に避ける主人公、リー。
人に干渉したくない世捨て人なのかと思ったら変に喧嘩っ早い。

地元で暮らす兄の病死を知り人並みに悲しむが、担当医には暴言を吐く。
かと思ったら謝る。

兄の遺言により兄の子=甥の後見人へ指名されたときの、観客の目線からすると違和感のあるリアクション(拒絶)。
地元の住民達の気使ってるような、よそよそしいような微妙な距離感。

こいつは地元を飛びだしてぷらぷら生きてる僕みたいなやつなのかな?
と思ったけどははーん。どうやら過去になんかあったな?

といつもの勘ぐり視聴を始めたけれど、劇中の言葉そのまんま、彼の経験は想像を絶するものだった。
みたいなあらすじ



事故の前のリーはちょっとやんちゃで困ったところはあるけれど、陽気で愛情深い男だった。
愛情深いという点は事故後も変わっていない。
根っこのところが優しすぎる。


優しいのはまだ若い息子と傷ついた弟の為に、残りの人生を掛け入念に計画を立てていたリーの兄ちゃんもだ。
リー自身も幼少期から見守っており、お手本のようなティーンエイジャーに成長した息子のパトリックの後見人になることで、リーの壊れた心に変化が起きることを願ったのだろう。

パトリックに関しては陽キャヤリチンでイキッてるけど、父親が死んでもしゃんとして過ごし、けっしてリーの過去には触れないチャンドラー家の血を引いた爽やかないいヤツ。
冷凍チキンを見て遺体の冷凍を想起しパニックを起こしたり、形見の船は売りたくない!というのを素直に言えなかったりする年相応な所もある。



過去に深く傷つき惰性で死んだように生きている人間が、人の温もり、愛と優しさによって生きかえっていく、マイナスをゼロにするストーリー。


だと思うじゃん。

無理なもんは無理。
立ち上がることすらはるかに遠いほど深い心の傷もある。


bgmを使う箇所が極端に少なく、そのぶん一撃が重く、一つ一つのシーンに強烈に胸を打たれる。

特にパトリックと過ごしていくうちにすこし前向きになったリーが、元嫁とばったり出会ってしまうシーンでセルフアイアンクロー。

俺はこれを、このシチュエーションを知っている。

自分のかつての行いによりあなたを傷つけたと。
許してほしいまだ愛してると縋ってくる女が目の前で涙を流している。

この状況で「幸せになって欲しい、もう行くよ」と去ることができるのは男の真の優しさだと思う。

俺はそうはできなかった。
みなに幸あれの感想にも書いたが、他人の幸せのために自分が嫌な気持ちになる/不利益を被るならば他人の幸せなんて願いたくないと思っている人間なので俺は嘘をついた。


年相応に(または壮絶に)傷ついてきた人が観たときは深く記憶に刻まれる一本だと思う。
観たことにより傷口が開いたのか、傷跡が薄くなったのかの差でなんとなく属性がわかる気がする。

前者の方、飲みに行きましょう。

どのように折り合いをつけて、まあ何とかやってるのか、そういう話。
二次会で卓球しながら語ろうや。



北海道仕事兼旅行の帰りの飛行機で観たせいで旅の後味が最悪でした。
何を考えて俺におすすめしたのか、これ見たら答えなさい。
ささみんと

ささみんと