しの

マンチェスター・バイ・ザ・シーのしののレビュー・感想・評価

3.4
静かな進行、海のモチーフ、過ぎ去ってしまった時間など、『ムーンライト』と重なる部分が多いが、この作品は徹頭徹尾「生々しい」のが特徴だ。

例えば、一瞬の間に一生の痛みを抱えてしまう恐怖と哀しみ。それを演じる役者の絶妙な演技。これらが辛いほどリアルだ。

しかし、同じくらいリアルで、非常に淡い希望もまた、確かに描かれる。特別なこと何も起こらない。ただ、時間の経過と周囲の環境に適応していこうとする微かな兆候が描かれるだけである。これが逆に力強いメッセージとなる。

物語から映画的、フィクション的「魔法」をとことん除外しようというコンセプトであることはわかる。従ってある意味免れ得ないことではあるが、少々インパクトに欠けていると感じた。もちろん作品の雰囲気が静かだからというわけではなく、むしろ同じように静かな『ムーンライト』に感じたような「重い一撃」のようなものがなかった。例えばラストシーンはもう少し目立たせてよかったと思う。要は「印象に残る画」不足なのだ。

個人的に最も心に残ったのは終盤で主人公とその元妻がばったり出会うシーンだが、このシーンの価値と130分の長尺が釣り合っているかと言われると微妙だ。もちろん好みの問題だが。
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