チーズマン

マンチェスター・バイ・ザ・シーのチーズマンのレビュー・感想・評価

4.3
気がついたら涙が出ていたような静かなとても良い映画。

ああ〜ヒューマンドラマを観た、という感じでした。

抜け殻の男を演じさせたら右に出るものはいない主演のケイシー・アフレック、それなりに長いキャリアの割にはベン・アフレックの弟として影に隠れてしまった存在。それゆえ数々の問題行動や荒んだ感じも心の空白を埋める為と思わせる(実際は知らんが)擦れた色をした彼にしか出来ない見事な役でした。
このタイプの役が合いますよね、近年だと『インター・ステラー』の主人公の息子が大人になって荒んだ哀愁漂う落ちぶれた男の役も結構好きでした。
落ちぶれた感じがもあまりにも違和感なく普通なので役柄的に脇役になることが多いけど、今回はそこが最大限活かされた作品だったと思います。


『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー リミックス』と同じ日に観ました。
真逆のタイプの映画だと思ったので気持ちの切り替えが大変かなと思いきや意外や意外、どちらも描き方が違うだけで根底に流れるものに大きな違いはなかったように思います。
父と子や家族、割り切れない気持ちとともに生きていく者達。

ガーディアンズ〜…では銀河スケールの虚構でポップに描いていたのとは対照的に、こちらはアメリカの片田舎で地に足の着いた…、どころか地を這うようなリアルさと、その中で生きていく人間への愛情を込めて描かれていました。

図らずも擬似的な親子のような関係になったリーとパトリックの交流やその周りの人達を通じて描かれるもの、人は実は“本当に悲しい出来事を完全に乗り越える”なんてことはきっと無理なんだろうなと思った。
だからこそ人を気遣い気遣われることで中和させる、そのささいな優しさの瞬間の積み重ねで生きていくのかもしれない。

そしてそれを体現する役者の演技の素晴らしさ!
アカデミー主演男優賞を獲ったケイシー・アフレックだけじゃなく脇役に至るまで皆良かった。
演出がよほど行き届いているのか本当にそこに居るとしか思えない自然さ、終始演技を感じさせないことに気持ちを掴まれっぱなしでした。
べつに大きな声で叫ぶだけが良い演技じゃないんだよなと、つくづく思いましたね。

あと、この作品の監督ケネス・ロナーガン「ユーモアとドラマは対比するものではなく同じものだと考えている」と言っていたように笑える場面も結構あるのも大事だと思いました。
ちなみにこれだけ繊細なタッチでドラマを描ける監督なのでなんとなくそういう姿をイメージしてましたが、劇中でリーとパトリックが路上で口喧嘩している時に絡んできたガタイの良い強そうなオッサン、その人が監督らしいです。笑

もしこの映画が面白かったのなら、同じくケイシー・アフレック主演でベン・アフレック初監督作品『ゴーン・ベイビー・ゴーン』も大変味わい深いので観てほしいです。
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