Shelby

マンチェスター・バイ・ザ・シーのShelbyのレビュー・感想・評価

4.8
兄の死により距離を置いていた故郷マンチェスター・バイ・ザ・シーに仕事も辞めて引き返すことになった主人公リー。
甥であるパトリックの後見人になったことを知り、驚きが隠せず頑なにその事実を拒否し続ける。現在と過去を交互に映し出すことによって明らかとなるリーの過去。
一見、粗暴で率先して孤立したがる変人なのだが、リーがそうなってしまったある出来事は、今も彼を苦しめていた。

胸が張り裂けそうだった。彼の心情を、彼の痛みを思うと、何度も涙が流れた。どうしたって彼の中ではまだ生傷のままで、前に進めていないのだから。
元妻のランディとたまたま道端で会い、今までの思いを吐露する場面。剥き出しの感情が、見ているこちら側の息苦しさすら引き起こすほどの引力。
ずっと壊れたままのお互いの心。ふたりは、癒えることない傷をこれからも永遠に持ち続けることだろう。

二人で暮らすためにどうにかならないのかとパトリックが問いただす時リーの放った、「つらすぎるんだ」の一言。その一言にすべてが詰まっている。余計な説明など一切不要なのだ。

静かな音楽と薄暗く冷たい空気が物語を包み込む。僅かな希望ともとれる二人の心が通い始めた終わり方。ただ、最終的には何も救われてなんかいない。
けれども、痛みを抱えて生きていく。無理に乗り越えることなんてない。それでいい、これこそがリアルなのだと、全ての痛みを肯定してくれる作品だった。
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