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ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命のKUBOのレビュー・感想・評価

4.0
今日のレヴューは「ユダヤ人を救った動物園」。公開後の評判がそれほど高くなかったので、見に行こうか悩んでたんだけど、これは見てよかった。素晴らしい作品でした。

ドイツ占領下のポーランドで、動物園の地下にユダヤ人を匿い、300人ものユダヤ人を救った夫婦の実話に基づく物語。

ドイツによる侵攻で爆撃に曝される動物園。それまでの、アントニーナにとって天国のような場所が一転、地獄と化す。冒頭の、まだ平和だった頃の動物園の様子が、アントニーナを演じるジェシカ・チャステインが、美しいだけに、その悲惨さが際立つ。

戦時中の動物園と言えば、日本でも「エサに毒を混ぜて殺した」など悲惨な過去が語られているが、戦争による被害者は人間ばかりではない。無垢な動物だからこそ、かわいそうで見ていられない。

今まで「ゼロ・ダーク・サーティ」や「女神の見えざる手」などで、いわゆる「強い女」を演じることが多かったジェシカ・チャステインが、初めてソフトで我慢する女性を演じているのも注目のポイント。でもある意味、とっても強いんだけど(^_^)。

この作品を「厳しさが足らない」と指摘する人もいるだろうが、私は本作を、間口を広げて「子どもにも見せられるホロコーストに関する映画」を作ったのだと捉えているので、大人は子どもたちの乗せられた列車のドアが閉まった後のことは脳内で補完すればよいし、この映画で初めてそういう事実に触れた子どもたちは、その後に「ライフ・イズ・ビューティフル」「シンドラーのリスト」と見ていけばいいと思っている。

私は子どもたちを引率するコルチャック先生が「ライフ・イズ・ビューティフル」のグイドにも見えたし、子どもたちを待つその先の運命を知る者には、「列車の扉が閉まる」という演出だけで十分な絶望感を感じさせた。

ニキ・カーロ監督は「最も描きたかったのは、女性が経験した戦争。そのために極力戦闘シーンを少なくすることを意識した。」と語っている。昨年、日本で大ヒットした「この世界の片隅に」も同様の視点から作られており、共通性を感じる。

エンドロールに流れるが、主人公のジャビンスキ夫妻は、シンドラーや杉原千畝に並んで、イスラエルから「諸国民の中の正義の人」として認定された。まだまだ我々の知らない事実はたくさんある。ぜひ中学生くらいのお子さんにも見せてあげたい。辛い歴史の中にも、愛と勇気が多くの命を救ったことに素直に感動できる作品です。


(ポーランド人とドイツ人が変な訛りのある「英語」で話しているのには、それなりの違和感は感じた。英語圏で映画化されるわけだから、仕方はないのだけれど)
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