くぼた

ウインド・リバーのくぼたのレビュー・感想・評価

ウインド・リバー(2017年製作の映画)
3.8
モンタナの目撃者を観てから観た。

良かったと思う。"雪以外のすべてが奪われてしまった"厳しい保留地、そこに生きる人々。ネイティブ・アメリカンの女性の失踪が捜査されてこなかった歴史。

映像が美しい。ワイオミングの苛烈で美しい雪景色。大スクリーンで観たかった。

「事実に基づく」、「失踪者の統計にネイティブ・アメリカンの女性のデータは存在しない」。それぞれ映画の最初と最後に文字だけで示される文言。
このふたつを映画のストーリーにまとめようという時に、こんなに淡々と静かな凄みをもったものにできるのはすごい。
ストーリーの骨子的には、ミステリーやサスペンス、追跡もの、などたくさんのラベリングができるであろうが、個人的にはどれも当たらないと思う。
静かに順を追った事実の提示、世話焼きなギミックはほぼない。しかしエンタメにもなっている。すごい。どうなっているんだろう。

どうなっているんだろうと考えて思い当たるのは、良くも悪くも刺激的な要素のひとつひとつかもしれない。
血、死体、美女、レイプ。銃、狩り。暴力。粗野で危険な男たち。懸命だが土地に明るくない(これは終わりには"だが"の前後がひっくり返される)都会人の女捜査官。悲しみの影とともに生きる、凪いだ狩人。
このどれもが過剰なラッピングをされず淡々と生きているのが良い。

レイプシーンは過激さはないが、それでもつらかった。事実に基づくという事実がまたつらい。
シェリダン監督作品に限らず、ひいては物語だけでなく現実にも「真の強さは女こそが持っている」みたいなミームが膾炙してきた。この作品の中にも「強い娘だ」というセリフが繰り返し出てくる。その通りだ。彼女たちは実際に強く人として美しいし、優れた狩人にそれくらい言ってもらわないと浮かばれない。でも"真の"と付けなきゃならない時点で、奪われる側である。奪われること自体なくなってほしいものだ。

終盤の狩りのシーンは非常に淡々としていて、それでいて最高にカタルシスがあった。

楽しいシーンはほぼないが、よい作品だった。
くぼた

くぼた