菩薩

ウインド・リバーの菩薩のレビュー・感想・評価

ウインド・リバー(2017年製作の映画)
4.1
終盤、黒幕のあいつが逃げ回るシーンで一瞬だけヤマアラシが出てくる。その瞬間エヴァンゲリオン第参話の中でリツコさんが話すショーペンハウアーの「ヤマアラシのジレンマ」の話を思い出した。後々エヴァの中では人と人は近づきすぎると傷つけ合ってしまう存在であり、その為に何人たりとも心に壁を持つ=ATフィールドとして語られる一幕であるが、確かにこの作品においても「扉」を開ける、ないし砕かれた後に人々は傷ついていく。居留地自体が奪った側の白人と奪われた側のネイティブアメリカンにとっては大きな壁となり、また法も人と人との間に強固な壁を作り、本来であれば互いが傷つかない距離感を保つ為に様々な「壁」が機能すべきなのだろうが、 人間の幸せと言うものは基本的にその壁を乗り越えて他人から奪い取って成立し続ける物だし、人もヤマアラシの棘の様に、その手に武器があり続ける限り、寄り添っては傷つけ合うと言う不毛の連鎖を止める事は出来ない。だが「奪う」は裏を返せば「与える」でもあるわけで、その手に持つ武器を捨て、心に抱える敵意を捨て去ることが出来れば、その壁を乗り越えた先には共存があるのではないか。絶望も希望も綯交ぜにした後の「寄り添い、語らう」に焦点を当てたラストシーンからはそんな事を思ったし、この作品が現代社会に問いかけるメッセージもきっと、そんな所にあるのでは無いだろうかと思う。
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